府立図書館1

三条通りから神宮道を上がり平安神宮の大鳥居をくぐると、左手に西洋風の重厚な建物が見えてくる。京都府立図書館である。明治42年に完成というからすでに百年を越える建物である。しかし、図書館本体は、1995年に京阪神を襲った阪神大震災の際に受けた被害のために、2001年に建て替えられた新しい建物でもある。再建にあたって正面の外観だけは創立当時の面影を残したのである。それで、正面上部に掲げてある「京都図書館」の篆書(てんしょ)文字の銘板も創立当時のまま残った。とても均整のとれた美しい文字である。

「京」の字は城壁で囲まれた町への入り口に立つアーチ状の門を表す。

「都」は(つくり)(おおざと)(ゆう)を表す。「邑」とは人々が集まって生活している「まち」のこと。「者」は土の垣。土塀のこと。「都」とは大きな土塀で囲まれた「まち」をいう。

「京都」とはアーチ状の城門を持つ大きな土塀に囲まれた「まち」。やがて、そこは「国の中心のまち、みやこ」の意味となる。豊臣秀吉が築いた京都の街を囲む「お土居」の遺構が、今も市内のあちこちに残っている。

「図書」の「図」の旧字体は「圖」。この字は米の貯蔵庫(米倉)の所在地とその周辺の地図を示す象形文字。古代の為政者にとって、米倉の場所や農地がどのように区割りされているかという情報は税を集めるうえで重要であった。

「書」は(いつ)(しゃ)との組み合わせ。「聿」は筆を手で持つ形。「者」は土塀のこと。土塀の中には外からの邪霊の侵入を防ぐおまじない(呪符)を入れた器が埋められた。その器(曰)の中に筆で書いて入れた神聖なおまじない(呪符)の文字のことを「書」という。

「圖(図)」はのちに「文書」の意味にも用いられるようになって、二字合わせて書物を表す「図書」という熟語ができた。

ところで、銘板の「書」の字に「、」があるのに気づかれただろうか。者は現在の字体では「者」と書くが、旧字体では「者・旧字体」のように土と日との間に「、」があった。白川先生は、呪符を入れた器に土をかけて隠し、邪霊を防ぐ守りとした字が「者」なのだから、土をかけたしるしの「、」がなければならない。それを取ってしまったら本来の字の意味を失うと事あるごとに言われた。この銘板の「書」には聿と者からできた字であることを示すデザイン化された「、」がちゃんとある。それも見るべきポイントである。

「館」は、もとは軍が出征するときに携えた神聖な肉を祭る建物のこと。将軍たちが食事をしたり、生活したりする場所でもあったので「食へん」がつく。古くは、公的な建物や学校などの大きな建物=「やかた」をいう。

古代文字
京・甲骨

(京・甲骨)

都・金文

(都・金文)

図・金文

(図・金文)

書・金文

(書・金文)

館・篆文

(館・篆文)