ラジオ第59回「炎からできた漢字」

炎からできた漢字(金文 3000年前)

今回はローソクの「炎」の形から生まれた漢字を取りあげます。
最初に掲げた3000年前の「金文」の文字は、ローソクの炎の形にそっくりです。この絵のような文字が今の何という字になったのか、これだけではとてもわかりません。その炎(灯心)に油皿がつき、直立した燭台(お燈明(とうみょう)立て)がつくと次のような文字になります。

主・篆文

主/篆文2200年前

金文から八百年ほど経った「篆文(てんぶん)」の文字です。現代の字にかなり近くなったとはいえ、これでもまだ何という字かわからないかもしれませんが、この字こそ「主人」の「主」、「あるじ」と用いる「主」という字の古代文字です。

現代の「主」の上側の「、」は炎(灯心=主・灯心 )、その下の横棒「―」は油皿( 主・油皿 )が変化したところ。その下の「土」は燭台(しょくだい)を表す古い文字のままです。「主」は燭台の上でゆらめく炎の形から生まれた字でした。

その字がどうして「主人」の「主」、「あるじ」という意味を持ったのでしょうか。以前、「光部」さんの「光」という字を扱った時に話しましたが、当時の人々にとって「火」は神聖なものでした。神聖な火を扱うことができるのは、一族(家族)の中心的な人、つまり「主人」や「あるじ」だったのです。私の家でも、お祭りの日、神棚の「御燈明」をつけるのは父親の役割でした。

その主人が灯す「炎」は、まっすぐに立った燭台の油皿の中で燃えていることから「直立する」という意味になりました。それで、直立して建物を支える大切な役割を果たす「木」を「」と言いました。のちに、直立する「柱」が立つ建物で人びとが生活することから「住む」という字の「」も生まれます。

柱・篆文

柱/篆文2200年前

住・隷書

住/隷書2000年前 古代文字なし

「柱」はまっすぐ立つだけでなく、一定の場所に立つことから、「主」に「一つの所にとどまる」という意味が生まれました。「住」にも「とどまる」の意味が含まれています。

駐・篆文

駐/篆文2200年前

軍隊が馬車を率いて遠征に出かけ、一つの所にとどまることを「馬」と「主」とを組み合わせて「」といいました。「駐屯(ちゅうとん)」・「駐留」というときの「駐」です。現代ではすべて「とどまる、とどめる」ことをいい、「駐車」「常駐」などとも使うようになります。

「主」という字は「中心的な人・コト・モノ」を表すと同時に「直立する」・「とどまる」などに意味を広げて、「柱」「住」「駐」などと仲間を増やしていきました。

注・篆文

注/篆文2200年前

さらにもうひとつ。日常よく使う字に「主」が入った字があります。「注意」の「」です。この字も燭台の上で燃える炎と関わりのある字です。炎を絶え間なく灯すためには、油皿の油を絶やすわけにはいきません。足りなければ「そそぎ」入れなければなりません。(さんずい)」に「主」は油を「そそぐ」ことから生まれた字です。油を注ぐように、見るものに心を注ぐ=傾注することから「注意」・「注目」のように「気を付けてじっくり見る、目をつける」という意味にも用いられるようになりました。

直立した燭台で燃える炎から生まれた「主」。「あるじ、中心」という意味から「直立」「留まる」「注ぐ」などに意味を広げながら「柱」「住」「駐」「注」等の漢字を生み出しました。ローソクの揺らぐ炎と出合ったら、「主」を要素に持つ字を思い出してもらえたらうれしいです。

*ちなみに「炎」という字の古代文字は「燃えさかる火」を重ねた形からできています。

炎・金文

炎/金文 3300年前

炎・篆文

炎/篆文 2200年前)

放送日:2016年11月28日


3 Comments

  1. 習志野権兵衛

    2016年12月13日 at 2:12 AM

    折角だから、「火」がひとつ、「火」がふたつで「炎」、「火」がみっつで「 」と、みっつの場合もして欲しかった。
    暴走族が使いたがる文字の気がするけれど、単純に炎の勢いがより激しいという意味でいいのですか?
    さらに言うと、「木」も一つの場合以外に二つの場合と三つの場合がありますが、
    僕の辞書では、「糸」は二つの場合だけで、それは旧字体のようですし、
    「水」と「犬」は三つの場合だけです。
    これらにも、三つの場合や二つの場合があったのでしょうか。

    • 510sensei

      2016年12月22日 at 1:03 AM

      習志野権兵衛様

      ご指摘のように「火」は二つ・三つ、そして四つと重なる字があります。

      火 炎 焱(エン・ほのお) 燚(イツ 火の燃えるさま) 

      「木・林・森」のように、古代文字で同じ物を二つ重ねると「多いけど数えられるかず」、三つ重ねると「数えられないほど多い」という意味を持っています。四つともなればそれ以上ということですから、増えるに従って勢いを増す炎ということになるのかもしれません。

      「糸」は甲骨文字では糸束が二つの形になっており、「絲」がもともとの形でした。三つ重ねる字はないようです。「水」と「犬」はご指摘のように三つ重ねた字があります。今回ご指摘があったように、同じ字を重ねる字を探すのも面白いですね。
      「耳」にも三つの字がありますし、「泉」にもありました。他にもあればまた紹介してください。

  2. 習志野権兵衛

    2017年1月14日 at 7:13 PM

    有難う。
    すぐ思い出したのが、「豪放磊落」の「磊」とk、「贔屓の引き倒し」の「贔」でした。
    気長に辞書で片っ端から探したら、もっとあるかも。

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