目で見る漢字

今日は、一冊の本を紹介したいと思います。本のタイトルは『目で見る漢字』(文:おかべたかし 写真:山出高士 出版:東京書籍 発行日:2015年7月) ラジオでは直接お見せできないのが残念ですが、漢字にまつわるエピソードがその漢字のエピソードにうまくマッチした写真とともにわかりやすく紹介されています。

蟹・篆文(蟹/篆文2200年前)

表紙には、甲羅と一本一本の脚に分けられた「毛ガニ」が、元通りのカニの形に上手に並べられている写真があり、その下側に「解+虫=蟹!」と大きく書かれています。2200年前にはすでに「」の字があります。

解・甲骨

(解/甲骨3300年前)

解・篆文

(解/篆文2200年前)

「蟹」の字の中にある「」の成り立ちは「(つの)」+「刀」+「牛」との組み合わせ。牛の角を刀で切り取ることをいう字です。獣の死体を解き分けることを「釈」と言います。その字と合わせ、獣の角を切り取り、肉を取り分けて解体することを「解釈」と言いました。そこから、意味や内容などを分けてとき明かすことを「解釈」というようになります。「解」は牛の角を切りとるというもともとの意味から、のちに広く疑問を「とく」、問題を解きほぐして解決することをいうようになります。白川先生は「蟹」の字について「解に従うのは、脱皮する意か、あるいは、その全身が分節より成る意であろう。」と 『字通』に書いておられます。

『目で見る漢字』にはここまで詳しく説明されていませんが、分解された「毛ガニ」の写真と「蟹」の漢字が並べられると、なるほどそういうことかと一目でわかります。写真とともにその漢字(ことば)のルーツが説明されるとわかりやすい。いいところに目をつけたなと思います。ただ、本文で扱われているそれぞれの漢字の成り立ちについては、白川先生の説でないところがあり、こんな成り立ちの考え方もあるよと紹介したい気持ちにもなりました。

ふるとり・篆文

(隹/篆文2200年前)

雀・甲骨

(雀/甲骨3300年前)

その一つの例です。本文P57に「『進』に『(すい)(ふるとり)』があるのはなぜ?」という見出しの付いたページがあります。説明によると「『雀』を『隹』と『少』と書くのは、『少』には小さいという意味があるから。また鳥と関係ないのに『進』に『隹』があるのは、小さな鳥は下がることができずに、前に進むだけだからだそうです。」とあります。「隹」が鳥を表す字だというのは以前「集」や「焦」を紹介したときに扱いました(参照:ラジオ第70回「鳥の羽ばたき」)。

進・金文

(進/金文3000年前)

推・篆文

(推/篆文2200年前)

「進」の字の中にある「隹」も、やはり鳥との関係からできた字ですが、「小さい鳥は前に進むだけだから」その字になったというのはややこじつけのような気がします。人が前に「すすむ」という行為は、もっと大事な行為だったはずです。その大事な行為の中でも、敵国に向かって軍隊をすすめるということは一大事でした。軍隊をさらに先へと進めるかそれともとどまるかのような重要な判断をする時に「鳥占い」が行われたと白川先生はおっしゃっています。「進」という字は、その鳥占いで前に進むかとどまるかを占ったことから生まれた字であるとおっしゃっています。「推測」という時の「推」も「扌(てへん)」に「隹」です。鳥占いで先のことを推測する、おしはかるということから生まれた字であるともおっしゃっています。

このように『目で見る漢字』という本の成り立ちの解説には突っ込みたいところがいくつかありますが、それでもわかりやすい本に変わりはないです。この本は「目で見ることば」というシリーズものとして何冊か刊行されている中の一つだそうです。漢字に関心を持ってもらうための一冊として手に取っていただけると嬉しいなとの思いから紹介しました。

ちなみに、この本の作者(本文担当)は私が教員になった時の最初の教え子です。その彼が、こんな楽しい漢字との出合いの本を作ってくれたことをひそかに喜んでいます。

放送日:2017年9月25日