禾・金文(禾/金文3000年前)

秋本番となりました。日本各地での稲刈りも終わり新米の話題も届いています。「秋」という字にも入っている「()(のぎへん)」は「実った稲穂の形」からできた字です。稲(穀物)の収穫は人々にとって待ちに待った実りの秋を象徴するものでした。

秋・甲骨

(秋/甲骨3300年前)

以前(第11回ラジオ)取り上げましたが、「」という字は「禾」と「火」との組み合わせ。なぜ「秋」の字に「火」が入っているのか。それは稲を収穫する直前に恐ろしい敵と戦わなければならなかったからです。その敵こそ実った稲を食べつくす「(いなご)」等の虫たちでした。蝗たちがやってくるのを防ぐために、「火」で虫たちを焼く儀式が行われました。それが「秋」という字の成り立ちでした。

利・甲骨

(利/甲骨3300年前)

穫・篆文

(穫/篆文2200年前)

()(のぎへん)」のつく字の中には実った稲を刃物で刈り取ることを表す字があります。それが、利益の「」です。利は稲を刃物で刈り取ることを表す字でした。刃物を使って収穫することは利益をもたらすことなので「もうける」の意味となり、刃物の鋭さから「するどい」の意味ともなりました。

「収穫」の「」にも「禾」が入っています。「ものを得る」という意味で使われるこの字は、右側の(つくり)(蒦)の部分が「『みみづく』のような鳥を手でつかまえていること」を表します。そこから「けものへん」がついた「獲物」という字が生まれます。同じように「稲(穀物)」を得るときは「禾」を用いて収穫の「穫」という字ができました。

良・甲骨

(良/甲骨3300年前)

稲は収穫すると実のつまった籾殻(もみがら)とそうでない籾殻を選別します。昔は「唐箕(とうみ)」という大きな道具が農家にはありました。籾殻を天井側から入れ、取っ手を回しながら風を送って籾殻を選別する道具でした。はるか昔にはそんな立派な道具はありませんでしたが、箱のような器に風を送り選別するシンプルな道具がありました。その器の形からできた字が、「良い」という時に使う「」です。「良」という字は、実の詰まった「よい」籾殻を選ぶための道具から生まれた字でした。

康・金文

(康/金文3000年前)

籾殻の選別が終わると脱穀・精米です。両手で(きぬ)を持って籾殻を突き、米の皮を取って精米します。その様子から生まれた字があります。それが、「健康」の「」です。今は「やすらか」という意味で使われる字ですが、もともとは米を精米することを表す字でした。「米へん」に「康」と書く「(ぬか)」という字のもとが「康」でした。

精・篆文

(精/篆文2200年前)

積・篆文

(積/篆文2200年前)

糠のついた米が「玄米」です。その玄米から糠をとってきれいにした白米を表す字があります。それが「米(こめへん)」に「青」と書いてできた「」です。青は清らかなものを表す字です。精米、精白といいます。

さて、収穫した米は「年貢(税)」としても納められました。「税金」の「税」も「禾(のぎへん)」ですが、税を米(穀物)で納めてその責任を果たすという字もできました。それが、「禾」に「責」と書く「積雪」の「」。米を入れた俵をうずたかくつんで納めたことから「つむ かさねる」等の意味に用いますが、もともとは税を米(穀物)で納めてその責任を果たすということでした。ちなみに税を織物で納めると「成績」の績という字になります。

はるか昔の人々にとって、米(穀物)の収穫は一年の中で最もうれしい季節だったに違いありません。ですから、「禾」や「米」等を用いた字がたくさん作られました。

放送日:2017年10月9日