前回は「赤」色にかかわる字を取り上げました。今回は「」色の成り立ちから始めたいと思います。

黄・甲骨(Ⅰ)

黄/甲骨3300年前

黄・金文(Ⅱ)

黄/金文3000年前

古代文字を見ると「黄」の成り立ちには二つの系統があります。一つは、火をつけて飛ばす矢=火矢の形(Ⅰ)から作られたというもの。甲骨文字(Ⅰ)を見ると確かに矢の形が入っています。真ん中の田の形に見えるところに火がつけられたはずです。火をつけて飛んでいく矢の光から「き、きいろ」の意味となりました。

もう一つは、古代の人々が腰のベルトに吊り下げた飾りの玉(佩玉(はいぎょく))の形から作られたというものです(金文Ⅱ)。腰の皮ベルトから吊り下げた佩玉の組み合わせが「黄」の字形となり、その吊り下げた玉の淡い飴色(あめいろ)が黄色とされました。(以下イラスト参照/『漢字なりたちブック 2 年生』から 伊東信夫 著 イラスト金子都美絵)

漢字なりたちブック

二つの説(火矢、飾りの玉)はどちらも輝く光を放つという点で共通しています。「黄」という字は輝く光りの色から生まれた字でした。

さて、「黄」の色にはどんなイメージがあるでしょうか。古代日本の人々は黄色い花が咲くところにはあの世への入り口があると考えていました。「黄色い泉」と書いた「黄泉(よみ)の国(あの世)」への入り口です。

もう一つ。水戸光圀のことを「水戸の黄門様」といいます。黄門は中国の官職名で、日本では中納言を言います。黄門様は中納言の位だったそうですが、黄門にはもう一つ意味があります。「黄色い門」と書くように中国では天子の住む宮殿の門のことを言いました。その門は黄色で塗られていたといいます。宮殿の門に象徴されるように黄色は中央(中心)の色を表しました。中国の五行説では、東:青龍(青・緑)、西:白虎(白)、南:朱雀(赤)、北:玄武(黒)という四神に守られた方角の真ん中に黄色が配置されています。黄色はすべての中心にある色と考えられていました。

現在でも方角を守る四神の考えは残っています。例えば、相撲の土俵の上の釣り天井。天井の東西南北に青(緑)・白・赤・玄(黒)の大きな房が吊るされています。土俵の四方を守る役割がこの四つの房に託されています。

白・甲骨

白/甲骨3300年前

五行説の黄色は中心の色でしたが、西を表す「」はどんな成り立ちでしょうか。白川先生は「白」は人間のしゃれこうべ(白骨化した頭蓋骨)の色からできた字だとおっしゃいました。古代の中国では偉大な指導者や討ち取った敵のリーダーのしゃれこうべは、優れた霊力があると信じられていました。そういうリーダーのことを「伯」と言いました。ですから、伯は爵位の一番上の伯爵などのように「かしら、おさ」などの意味で用います。

玄・甲骨

玄/甲骨3300年前

北を表す「玄」は、糸束をねじった形。白色の糸束をねじって染め汁の入った鍋に漬けて染め、黒色になった糸を表し、「くろ」の意味で用います。

黒・黑・金文

黒・黑/金文3000年前

その「くろ」を表す「」の字の成り立ちです。黒の古代文字は印象の強い字です。黒は上側の「里(古い文字では(かん))」と「灬(よつてん)」との組み合わせ。「里((かん))」は袋の中に物がある形。これに下から「火(灬)」を加えて、袋の中のものを焦がして黒くすること、あるいは黒い粉末にすることを言います。墨を製法する時の方法を表した字です。松の木等の粘りのある木を燃やすと真っ黒い煤がたまり、それを袋にためて墨の原料を取ります。「黒」はその様子を表した字です。金文には袋の中の煤、飛び散っている煤が点々で表されています。東を表す「青」と南を表す「紅」の色については前回に触れました。参照してください。

秋の紅葉・黄葉の時期なので「色」にかかわる漢字の成り立ちを2回にわたって取り上げてみました。色は色そのものを表すだけでなく、人生を表す言葉にも用いられます。人生を四季に例えて青年期を「青春」、壮年期を「朱夏(しゅか)」、熟年期を「白秋(はくしゅう)」、老年期を「玄冬(げんとう)」と表現します。色をシンボルとして様々な言葉ができています。

放送日:2017年11月27日