雪・甲骨

今回は「雪」という字から始めようと思います。雪は「あめかんむり(雨かんむり)」に「雪パーツ」と書く象形文字です。象形ですからあるものの形からできた字です。この場合「あめかんむり」は自然現象を表すといえますが、「雪パーツ」はいったい何を表しているでしょうか?

古い文字を見ると、天(雪・甲骨パーツ1)から何か(雪・甲骨パーツ2)が降ってくるのです。その何かが現代の字では「雪パーツ」で表されています。甲骨では「雪パーツ」に当たる部分が二つでした。

雪・甲骨

雪/甲骨3300年前

羽・甲骨1   羽・甲骨2

羽/甲骨3300年前

この二つの「雪・甲骨パーツ2」こそ、現代の「」という字です。漢字を生みだした人々は空から鳥の羽がひらひらと落ちてくるイメージで「雪」をとらえました。「雪パーツ」は羽を表しています。

ところで、「羽」という字が入った字を他に思いつきますか。よく使う字の中ではあと二つあります。

扇・篆文

扇/篆文2200年前

一つは「扇子(せんす)」という時の「扇」です。「扇」は「戸」と「羽」の組み合わせです。戸は(とびら)を表します。羽はもともと左右に(はね)があるものなので、古く「扇」は左右に開く両開きの扉を表しました。のち、「団扇(うちわ)」・「(おうぎ)」のことをいうようになります。団扇の歴史は古く、古代中国でも使われていたといわれています。その当時の団扇がどのようなものか定かではありませんが、細長い四角い形だとしたら、四角い扉の形とつながって「団扇」の字に使われるようになったのかもしれません。

習・甲骨

習/甲骨3300年前

習・木簡

習/木簡 約2500年前

もう一つは、学習の「習」です。現在の字形は「羽」と「白」との組み合わせです。しかし、古くは「白」ではなく「(えつ)」でした。「曰」は願い事を入れる「口・篆文(さい)」という器に願い事が入っていることを表す字でした。願い事を入れた「口・篆文」の上を羽で何回もこすって願い事の効果を高める行為が「習」でした。一定の行為を何回も繰り返すことから学習を「くりかえす」、慣れて習慣化することから「なれる、ならう」等の意味を持つようになりました。

單(単)・甲骨

單(単)/甲骨3300年前

最後に羽が入っているのにもうわからなくなってしまった字を一つ紹介します。

それは単純とか単位、単身とかに使う「単」です。古い漢字は「單」と書きました。古い文字を見ると「單」は楕円形の盾(防御用の武器)の上から触覚が斜めに2本出ているような形をしています。盾の上に二本の羽飾りが飾られている姿を表した字です。古くは(ほこ)(戈)と盾で戦いを行ったため「戦」」という字には盾・矛(戈)両方が入っています。羽飾りはお守りのように盾の上に飾られたに違いありませんが、部族によって盾の飾りが違ったようですから自分たちの部族のシンボルだったのかもしれません。

「単」は軍隊の小さな一隊(小隊)を表す時に用いられました。その一隊(小隊)を「単」と呼びました。その「単」が三つ集まると「軍」と言いました。ということで、「単」は一番小さな一つの単位だったので、「ひとり、ひとつ」の意味で用いられるようになりました。

それにしても空からはらはらと落ちてくる雪を鳥の羽が落ちてきたと感じる古代人のロマンチックな想像力に驚きます。雪国の方々にはとてもそんなふうには思えないかもしれませんが、古代中国の人々は空から鳥の羽のようなものが落ちてくる様子を「雪」という字に込めました。

今冬、雪が降ってきたら空を仰いで、古代の人々の想像力のことをひそかに思い浮かべてみてください。

放送日:2017年12月11日