文・甲骨  房・篆文

今週のラジオテーマ「文房具」について取り上げてみます。

「文房具」という言い方は、「文房で用いる道具」という意味から始まっています。では、「文房」とは何か。漢和中辞典によると『読書するための部屋、書院。書斎。』とあります。つまり、文房具とは「書斎で用いる道具(物)」のことです。中国の宋の時代(10~13世紀)に「文房四(ぶんぼうし)(ほう)」という言い方で登場します。書斎で用いる四つの宝という意味です。それは、「筆、墨、(すずり)、紙」でした。中でも、墨や硯はどの場所で作られたものかによって価値が違いました。より価値の高いものを愛玩するようになり、コレクションとして珍重されるようになりました。

文・甲骨

文/甲骨3300年前

房・篆文

房/篆文2200年前

さて、「文房」が「書斎」を表すようになったのはなぜでしょうか。成り立ちから紐解いてみます。「」は、文章や文学という時に用いられる字ですから、読んだり書いたりすることを表します。では「」はどうでしょうか。「房」は「戸」と方角の「方」との組み合わせです。「方」には四角いという意味があります。「正方形」はまさにそうです。四角い形をしたものに戸が立てられれば、そこは部屋になります。文章を書いたりする道具=文房が置かれている部屋を「書斎」というわけです。本が中心であれば「書房」と言いますし、一人で入れられる牢屋のことを「独房」と言ったりもします。

文・金文1  文・金文2

文/金文3000年前

文・篆文

文/篆文2200年前

ところで、「文」という字の古代文字を見ると不思議な形をしています。人が手を垂らして大の字になっている形です。しかも、大の字になった真ん中の部分に「×」や 「♡」などの文様があります。現在の「文」の字にはありませんが、本来は「文」の字のたすき掛けの上の隙間部分に文様(もんよう)がある形です。何のためにこんな文様をつけたのでしょうか。

それは、この手を垂らした大の形をした人は亡くなった人なのです。その亡くなった人の元に悪いもの(悪霊)が入って来ないように、あるいは、亡くなった人の魂がどこかに連れ去られてしまわないように×やハート(心臓)のマークを胸元に書いて、おまじないをしたことを表しています。おそらく朱の色で美しく書かれたと思われます。

そういうことから、その文身(身体に付けられた文様=ペインティング)の美しさを「文」という字は表すようになり、やがて、文字の美しさ、文字を書き連ねた文章の美しさのことを「(ぶん)(しょう)」と言うようになりました。「彡(さん)」は文様の美しさを表す字です。今は、「彡」を取って「文章」と書いています。ちなみに、糸で編んだ文様は「紋様」といいます。死んだ人の胸に描かれたマークから「文」の字は生まれ、次第に、文様の美しさを表すようになり、やがて、文字や文字が書き連ねられたものを表すようになっていきました。

具・甲骨

具/甲骨3300年前

具・金文

具/金文3000年前

具・篆文

具/篆文2200年前

最後に、文房具の「」です。「具」は、目の形をした部分と横棒にカタカナのハの字を書いた「(きょう)」と呼ばれるパーツとの組み合わせです。古い文字を見ると目の形の部分は「足の付いた器=(かなえ)」の形をしています。「具」の下側の横棒とカタカナのハに似たパーツは両手を表しています。足の付いた器=鼎を両手で持ち上げている形からできた字が「具」という字です。道具を両手で持ち上げている姿から、その道具は、もともとは神様に捧げる神聖な器でした。ちなみに、「兵士」という時の「兵」は武器を両手で持っている形、興味の「興」も「同」という器を両手で持っている形です。

「文房」は四角い部屋=書斎を表し、「具」は道具を表します。文房具は「四角い部屋=書斎で用いる文章を書くための道具」を表すのが最初の意味でした。それから広がって、筆記具だけでなくノートやホッチキス、定規やハサミ、コンパス、消しゴム、付箋等など学校などで用いる様々な道具のことを指すようにもなりました。

それにしても、文房具ってどうして肝心な時に見当たらなかったり、最後まで使わないうちに行方不明になってしまうのでしょうかね。文房具の小ささゆえの悩みです。

放送日:2018年4月23日