食・甲骨

秋は、「実りの秋」・「読書の秋」・「スポーツの秋」等いろいろと呼ばれますが、今日は「食欲の秋」を取り上げます。〈「実りの秋」は第78回ラジオ(2017.10.9)で取り上げました。〉

食・甲骨

(食/甲骨3300年前)

食欲と言えば「」、食べるという字です。古代文字(甲骨)はとても印象的です。足の付いた器の上に(ふた)をした形で、器の中の「たべもの」、たべものを「くう・たべる」の意味で用いられました。

即・甲骨

(即/甲骨3300年前)

既・甲骨

(既/甲骨3300年前)

盛り付けた器の前に人がひざまずいている形からできた字があります。それが「即席」の「」。目の前に出された食べ物を席に座って即食べようとしているのです。それで、左側の「既・部首2」には「食」のようなふたがありません。

さて、おいしく食べ終わった後、もうおなかいっぱいで食べられない、食事はおしまいという意味を持つ字もあります。「おわる、すでに」といった意味で用いられる「既習」の「()」という字です。古代文字(甲骨)では、部首の「 既・部首」が食べ物を盛り付けた蓋のない器、(つくり)の「 既・つくり」が口をあけて顔を後ろにそむけた人の形からできています。食器を前にして「もう結構!」とでもいうような姿からできています。

米・甲骨

(米/甲骨3300年前)

粒・篆文

(粒/篆文2200年前)

さて、食欲の秋を代表する食べ物といえば、まずは「新米」です。お米です。「」の古代文字(甲骨)は、稲の穂に実がついている形で、実った「米」を表す象形です。おいしく炊きあがった、とんがったようなひとつぶひとつぶの米を「こめへん」に「立」と書いて「」という字になりました。

粗・篆文

(粗/篆文2200年前)

精・篆文

(精/篆文2200年前)

まだ玄米のままで白くきれいにされていない米を「」、「粗い」で表しました。精米後の白くきれいになったコメを、「こめへん」に「青」と書いて「」と言いました。

ごみなどが混じっていないきれいな米を、「こめへん」に「九と十」=「卆(そつ)」と書いて「(すい)」と言いました。「純粋」の「粋」、不純物の混じったものを「雑」と言いました。「粗雑」という言葉があります。「精」と「粋」を合わせた「精粋(純粋)」という熟語もあります

他に食欲を誘う食べ物は「秋刀魚(さんま)」、「芋」、「(きのこ)」等もありますが、もう一つ私の好きな「栗ご飯」を挙げておきます。

栗

(栗/甲骨3300年前)

」の実は、3300年以上も前から中国でも食されていたようです。ちなみに「栗」という字の元になった古代文字(甲骨)は、木の上に「いが」の実が3つ(いっぱい)ついた字です。とても印象的です。新米と併せてふっくら炊き上がった「栗ご飯」は美味です。

まだまだ食欲を誘う材料はあるかもしれませんが、今日はここまで。もう少し秋が深まると「新酒」も出てまいります。

放送日:2018年10月22日