2月も下旬になって、ようやく春めいた陽気になってきました。京都の北野天満宮でも梅の花が見ごろを迎えています。やはり、梅のほの甘い香りは春の訪れを感じさせます。
梅/篆文2200年前 |
「梅」という字は「木へん」に「毎」。「毎」はかんざしをつけた女の人の姿を表す字です。古代中国では、結婚した新妻(かんざしをつけた女の人)の仕事は嫁ぎ先の祖先の霊に仕えることから始まりました。祖先の霊を祭る行事の準備は嫁=婦人の仕事でした。
婦/金文3000年前 |
敏/甲骨3300年前 |
準備は、まず箒のような枝先に鬯酒=香り酒をつけ、祭りの行われる建物の中を祓い清める仕事からでした。そのことを表す字が「夫婦」の「婦」。「女へん」に「掃除」の「掃」の右側を加えた字です。「婦」は掃除をする女性なのではなく、祖先の霊を祭った建物を祓い清める女性のことを表す字です。
その準備に精を出して働く姿を表した字が「敏」です。手際よくてきぱきと仕事をこなすことから、機敏に動くことを表す意味を持つ字となりました。さて、梅の字に「毎」があるのは、この場合「バイ」という音を表す役割のみで用いられていると言われていますが、「毎」が酒を振りかける女性を表しているなら、この「毎」はほのかな香りがついた御酒の匂いがします。梅がかすかな香りを漂わせることとつながっているように感じませんか。
香/篆文2200年前 |
鬱/篆文2200年前 |
ところで、香りをつけた匂い酒は神様が大好きなものの一つでした。「香」という字も「禾」と「曰」との組み合わせです。「禾」は香りのよい穀物(黍等)。「曰」は願いごとを入れてある器。「禾」と「曰」とを神様に捧げ、かんばしい香りで神様の心を動かし、祈りを聞いてもらおうとする字です。そんな香りをつけた匂い酒=鬯(ちょう)酒(しゅ)の入った字が、今常用漢字では最も画数の多い29画の「憂鬱」の「鬱」という字です。すぐに書ける人は少ないかもしれませんが、林の間に缶詰めの「缶」があり、その下に「わかんむり」その下の左側ににおいのもとになる匂い酒=鬯酒が入ったつぼがあり、それがとてもいいにおいを発していることを右側の「彡(さん)」が示している字です。酒の気の満ちるように「こもる、ふさがる」の意味となり、人の心に移して「うれえる」という意味を持つようになります。
桃/篆文2200年前 |
兆/篆文2200年前 |
梅の香りが広がりだすと3月には「桃」の花も咲き始めます。
「桃」は以前にも紹介しましたが、弓の柄にも、四方の大地をたたいて邪気を払う棒にも使われる木です。桃は力をみなぎらせるパワーのある字、魔除けの木とされてきました。なぜそうなのか詳しくはわかりませんが、桃の枝だけでなく、桃の果実にも力があると信じられてきました。
その魔除けの力があることを「木へん」の横の「兆」の字が示しています。「兆」は占いに使った亀の甲羅にひびが入った形から生まれた字です。占いは未来の予兆を探る目的に行なわれましたから「きざし」の意味が、そして甲骨に熱した鉄の棒を刺して、ひびを入れるパワー、その一瞬のパワーを表す字にもなりました。力をためてジャンプする「跳ぶ」という字にも「兆」が使われています。新しいことにチャレンジする時にも集中したパワーが必要です。それが「挑む」です。逃げるときにもパワーは必要です。
3月3日の節句に桃の枝を飾るのも「魔除けの力」を持つ木と信じた人々の思いが残っている風習です。もうじき3月3日。今年は、花瓶に桃の花を飾ってみたらいかがでしょうか。魔除けのために。
2019年2月25日
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