実・實・篆文

今日(9月23日)は秋分の日。暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったもので、確かにこの時期に空気が入れ替わるように、季節の変化を感じます。

」という字はこれまで何回となく取り上げてきました。「秋」は穀物の収穫時期ですから「禾へん」があるのはわかりますが、なぜ、「火」という字が入っているのでしょうか。秋の字の最も古い文字(甲骨)を見るとわかります。

秋(甲骨1) 秋・甲骨

秋/甲骨3300年前

秋・旧字体

秋/旧字体

古い「秋」の文字には触覚のある「虫」がいます。その虫の下に「火」がある字もあります(右側)。「虫」はイナゴ(蝗)です。古代の人々が秋の収穫時に恐れていたのは収穫直前に蝗が発生して、実った稲などの穀物を食い荒らされてしまうことでした。その蝗の害を防ぐために、蝗を焼いて恐れさせる儀式が行われたのではないかと白川先生は考えておられます。その儀式が行われる季節こそ、「秋」だったのです。

現在の秋の字には害をもたらす「虫」がいなくなってしまったために、「火」がある「いわれ」がわからなくなってしまいました。古い文字に戻ってみると古代の人々がどんな思いで漢字を生み出したか、意外な理由がわかることがあります。

ところで、今から3300年以上前の「秋」という字は、季節の「あき」ではなく「みのり」という意味で用いられていました。収穫をもたらす「みのり」の意味です。「みのり」の時期こそ、蝗の大群がやってくるときでした。それで、やがて季節を表す「あき」の意味で用いられるようになり、現在に至りました。

同じように古く「みのり」の意味で用いられていた字で、現在は違う意味で用いられている字が「秋」の他にもう一つあります。

年

年/金文3000年前

委・篆文

委/篆文2200年前

季・金文

季/金文3000年前

「我は(きび)のみのりを受くるか(我は秋に黍のみのりを受けることができますか)」という3300年ほど前の甲骨文の中で使われています。その字は「」という字です。

「我は黍の年を受くるか」。「」の古代文字(甲骨)は、稲の形をしたかぶりもの(禾 稲魂)をつけた人の姿で表されています。豊作を祈願する「田の舞い」をする男の人です。今でも田植えの時期に神社で様々な豊作祈願の舞いが舞われますが、その一番早い豊作祈願の舞いの姿が「年」という字です。ちなみに、稲を頭にかぶって低い姿勢で舞う女の人の姿は「委」と言います。子どもが舞う時は「季」と言いました。「委」や「季」には頭に「禾」をかぶっている姿が残されていますが、「年」はわからなくなっているので、「秋」と同じように「いわれ」が伝わりにくい字になっています。

とはいえ、稲は一年に一度(みの)ので、「年」は「みのり」の意味から、やがて「とし」の意味として用いられるようになりました。

「みのり」という読みを持つ漢字は、他に「禾へん」に「念」と書く「」や「」があります。稼ぐという時に使う「禾へん」に「家」の「」も、古くは「みのる」という読みがありました。「禾へん」の「みのり」は穀物の稔りを言います。

実・實・篆文

実・實/篆文2200年前

が、「」という字は「穀物の稔り」とは違います。この字は古く「」と書いて、「うかんむり」に貫くという時の「貫」と書きます。「貫」は貝の字が入っているように、お金である貝に穴をあけてひもで通した形をした字です。そのひもでつないだお金を祖先の霊を祭る建物(宀)に供える形が「實」で、「豊かな供え物」のことをいいました。そこから、充実した状態のことをいうようになり、「みのる、み」の意味で用いるようになりました。

実が熟れた状態と外側の皮を「果実」というように、「実」は「みのり」は「みのり」でも果物の実りや内容が満ちているとき「充実」のように用います。

「実りの秋」・「稔りの秋」。今ではもうその意味では用いなくなった「秋」や「年」も古くは「みのり」の意味を持つ漢字でした。

ということで、秋分の日。今日は「みのり」あれこれについての話でした。

放送日:2019年9月23日