目・甲骨

目/甲骨3300年前

見・甲骨1

見/甲骨3300年前

現代から考えると古代中国の人々の発想は「不思議なこと」ばかりです。例えば、私たちは窓から木の姿を見ます。木は目の網膜に像として映っています。しかし、その目に映った木が、私たちに生きる力を高めてくれるなどと考えることはありません。ですが、古代の人々は単なる風景として木を見ているのではありませんでした。

とくに、夏の季節、木々が生命力にあふれる季節の木には、見ている人にものすごいパワーを与えてくれると考えていました。木が放つ生命力が、目を通して人の中に入り、人の生命力を高めてくれたのです。その高まった生命力があれば、遠く離れた人にさえ「思い」を届けることができたのです。

想・篆文

想/篆文2200年前

そうした古代の人々の考え方を背景に生まれた字が、木と目と心のパーツを組み合わせた「」、「想う」という字です。「木」と「目」で木を見ることを、「心」でその時の心持ちを表しました。見えないものを思い描く力を「想像力」と言います。見えないものを心の中に思い描ける力を持つと、はるか遠くの雲の流れ(雲気)を見ることで、その雲の下で何が起こっているかを読み取ることができる呪術者も現われました。私にはそんな力はありませんが、今でも、素敵な風景に出合った時、ワクワクした心持ちを感じることができるのは、その風景の力を心の中に取り込んでいるからに違いありません。

直・金文

直/金文3000年前

徳・金文

徳/金文3000年前

見えないものを思い描く力は、見ること、「目」の力から生まれました。見えないものを見るためにいかに目の力を強めるか。もう一つの方法が「眉飾り=呪飾」でした。目の上に飾りをして目の力を強めるのです。現代で言えば、歌舞伎の隈取のようなものです。派手な色で目の上を飾り、見る力を強め、邪気を追い払う力を高めました。そうすれば、見えないところで行われる不正を見抜く力を得られると考えたのです。その目の力で不正をただしました。

その字が、「」です。「目」の上にある「十字」は目の上の飾りを表します。Lの形は「壁」です。壁の向こうの見えない不正を目の力で見抜くことが「直」です。直は、真っすぐ物事に正対して、その物の奥に潜む本質を見抜く力を表します。

その直なる目を持つ人こそ、物事の本質を見抜く力を持つ優れた人=徳のある人と言いました。「」という字の(つくり)(右側)に直の一部が入っているのがわかります。

省・金文

省/金文3000年前

夢・甲骨

夢/甲骨3300年前

目の力を最大限高めてくれる「眉飾り」を持つ字には、もう一つ、「」があります。「目」の上の「少」は眉飾りです。直と同じように不正をただす力を持った行為です。その目で自分の行ないを振り返ることを「反省」と言いました。自分の行為や生活をかえりみて善悪、是非を考えることを「省察」と言います。そうして悪い部分を取り除くので、「省」は「はぶく」の意味にもなり、「省略」と使います。日本の国の官庁は「~省」と言います。国の役所が最も見る力を高め、不正をただす力を持つ役所であるようにとの思いが、この命名にはあるはずです。ですが、最近の総務省等の騒動をみると、不正をただす目の力は失われてしまったようです。

さて、「眉飾り」を持つ漢字には、他に「」があります。夢の中にも横になった「目」があります。その上の「夢・眉飾り」が「眉飾り」です。「家・パーツ」は家。「夕」は夜を指します。古代文字(甲骨)を見ると、目の上に眉飾りをつけた人がベッドに横たわっている形をしています。夜の夢こそ、心の奥底にあるものや何かの予知を表わす重要なお告げだと考えていたのかもしれません。

古代中国の人々は、目には見えないものを見る力にまで高めてくれる不思議な力があると考えていました。目は、見えるものをただ網膜に映すだけでなく、見えないものまでも見抜く力があることを教えてくれています。見る人(徳のある人)が見れば、見えない心の底まで見抜かれてしまうのかもしれません。心して振るまいたいです。

ところで、日本では古く「」を「」と呼びました。「まなこ」とか「まぶた」、「まつ毛」、「まぶしい」などの言葉に残っています。目の前方を「まえ」と言いました。目を離さずに見つめて安全を確保することを「まもる」とも言いました。この「ま」も目のことです。目には「まもる」という大切な役割があることを日本の言葉が教えてくれます。

放送日:2021年2月22日