華・篆文

庭に咲く沈丁花の花の匂いが春を告げています。今回もアフパラのメッセージテーマ「花」(3月8日放送)に便乗させてもらいます。

華・金文

華/金文3000年前

華・篆文

華/篆文2200年前

草木の「はな」は、「草かんむり」と音を表わす「()」とを組み合わせた「花」と書きますが、もともと「はな」という字は、中華というときの「華」と書きました。今の「花」という字は、北魏時代(5世紀ごろ)に作られた新しい漢字です。それに対して、「華」は今から3000年前にまでさかのぼれる古いルーツをもつ漢字です。

その「華」の古代文字は、「左右に葉を持つ花が美しく咲き誇っている姿」からできています。どのような花なのか今ではわかりませんが、きっと人々の目を引く美しい花の形象を表した字に違いありません。確かに「華」は、字形の中に「華やかさ」が漂っている感じがします。ですから、華麗とか、華美・豪華というように「華」でなければ成り立たない熟語も生まれました。

拝・金文

拝/金文3000年前

拝・金文2

「拝」には人の姿を加えた字もあります。

その美しい草花を人が手で抜き取っている姿を表わす字があります。それが「拝礼」の「」、「拝む」という字です。「扌」に「 拝・はん・パーツ(はん)」。「拝・はん・パーツ」は一本の茎に花の咲いている形です。腰をかがめて花を抜き取る姿が「おがむ」姿に似ていることから「おがむ」という訓になりました。

おがむように地面にかがんで華を抜く「拝」の字が示すように、ここでいう「華」は、草の花と考えられています。それでは、木に咲く「はな」は何と言ったでしょうか。

栄・篆文

榮・栄/篆文2200年前

今はもうその区別はつけなくなってしまいましたが、木に咲く花は「榮(栄)」と言いました。「栄える」と用いる「」は、夜に明かりをともすかがり火を表わす字ですが、その火の輝きのように木の上で華やかに咲く「はな」のことも言ったのです。なるほど、「木」の上に旧字体では「火(華)」が二つ輝くように光っています。

ですから、古く「栄」は「はな」と訓読みされていました。木の花「栄」と草花の「華」、二つ合わせると「栄華」(すべての花々が咲き、さかえ華やぐ絶頂の時)となります。

「榮(栄)」が「はな」と読む字だとは予想外だったかもしれませんが、日本語で「はな」と読む漢字は「花」・「華」・「榮」以外にもあります。白川静先生の『同訓異字』という本には、あと四つ紹介されています。

秀・篆文

秀/篆文2200年前

芳・篆文

芳/篆文2200年前

一つは、「」です。「秀でる」の「秀」も「はな」と読まれていました。「秀」はイネの穂が垂れ、花が咲いている形からできた字です。花咲くときこそぬきんでた時です。だから「秀でる」です。花が咲き、実をつけ、やがて実が落ちると「禿(はげ)」になります。

二つ目は、「(かぐわ)しい」というときの「(ほう)」です。百合のように香りが際だつように咲く華です。「芳」も「(香り立つ)はな」と読みました。同じ香り草として「芭蕉(ばしょう)」の「」の字も「はな」と読む字として取り上げられています。(古代文字はありません)

英・篆文

英/篆文2200年前

最後の一つです。それは、「」です。「草かんむり」と「央」との組み合わせです。「央」は「豊かに盛んなもの」=「美しく咲いている花」を表しています。花が咲くときが、最も人目を引くときですから「素晴らしい、優れている」という意味になりました。この字も「はな」です。一つ目の「秀」と「英」で「優れている」という意味の「秀英」という言葉も作られました。

「栄華」・「秀英」・・・ともに、「はな」から生まれた熟語でした。
今年の春ももうすぐです。せめて、自然の世界の華やかさだけでも取り戻す春になってほしいですね。

放送日:2021年3月8日