季節も二十四節気で言えば、「立春」から「雨水」の季節へと移りました。2月も下旬、もう月の終わりになっていました。
ということで、今回は、時の区切りにまつわる話から始めようと思います。
今から3300年前の古代中国の商(殷)の国では、10日に1回亀の甲羅を用いた占いが行われていました。10日目の終わりの日に、次の10日の間に天候の異変や病気等「わざわい」が起こらないかどうかを占っていました。現在の私たちが7日(1週間)を一区切りにするように、商の国では、10日を一区切りとして未来を占っていました。
なんでも、はるか昔の中国に伝わる伝説では、朝、昇ってくる太陽は10個あって、毎日かわるがわる10日間で一回りしていたようです。その伝説から世の中は10日間で一回りすることになったようです。
その10日間のことを「旬」と言いました。3000年以上前の中国の人々が「旬」と呼んだ期間のことを、現代の私たちも、月の「上旬・中旬・下旬」と10日ずつに分けて使っています。「旬」という言い方は、3000年もの間、時の区切りとして用いられてきた歴史的呼び方なのです。ちなみに、暦を表す「干支」という考え方も10の幹(甲乙丙丁・・・・)と12の支(子丑寅卯・・・)との組み合わせですから、10は時の根っこを示す数字として今も生きています。
旬/甲骨3300年前 |
旬/篆文2200年前 |
さて、その「旬」という字の一番古い文字(甲骨)は、頭のある(頭の方に縦線で区切りがある)生き物のしっぽのような形をしています。白川先生は、それを「尾を巻いた竜の形」であると言われています。
なぜ「竜」なのか。白川先生は「一旬(10日間)の吉凶を支配するものが、この竜の形の神であると考えられたからであろう」(『常用字解』より)と言われています。「竜」が、この世の「吉凶」を支配するすごい力を持っていると古代中国の人々は考えていたのです。現代の字は、「勹(ほう)」と「日」との組み合わせになっています。最初、竜の尻尾(勹)だけだった字に、のち「お日様」の「日」が加わって、現在の「旬」の形になりました。
ところで、「竜」はどこにいるのか。別の字が教えてくれます。それは、雲です。
雲/甲骨3300年前 |
雲/篆文2200年前 |
古い文字には、「旬」と同じように「しっぽ」の形があります。これは、雲の中から竜の尻尾が見えている形です。現在の雲という字の雨かんむりの下の「云」は竜の尻尾なのです。竜は雲の中に潜み、雨を降らせ、時に怒ると雷を鳴らす、自然を支配する神さまでした。ですから、日本では竜は水の神さま「竜神様」として祀られています。
竜・龍/甲骨3300年前 |
竜・龍/金文3000年前 |
そういえば、竜(龍)という現代の字にも、何やら下の方にしっぽのようなものがついています。古代文字を見ると、長いしっぽを持った動物の形をしています。蛇のようなとぐろを巻く胴体を持つ形に表されています。竜は架空の動物ですが、大きなヘビをイメージして描かれたと思われます。
最後に、「しっぽ」の形を持つ字をもう一つ紹介します。
電/金文3000年前 |
電/篆文2200年前 |
「電気」の「電」です。よく見れば、電の字にもしっぽのようなものがあります。雷の稲光は電気のもとです。空で暴れる竜のイメージが、この字にはあります。胴体をくねらせてあばれている竜の姿を想像すると、電気の電もなかなか荒々しい字だと思ってきます。
世情は騒がしいですが、緩やかに春の訪れが近づいています。「竜」の差配が人々に吉をもたらしますように。
放送日:2023年2月27日
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