目・甲骨(目/甲骨3300年前)

「目」も前回までの「手」と同じようにいろいろな漢字の中に使われています。「目」はいうまでもなく目の形を象った「象形文字」です。古くは横長の目の形をそのまま写し取った形でしたが、今は縦長の字になっています。

「目」は物を見ることが仕事ですから、「見」「看」「眼」等、見ることにかかわる字の中に入っています。「目」の入っている漢字で、他に思いつく漢字はありますか。

例:「眠・瞳」「直」「省」「着」「相(想)」「県」「真」「盾」「眉」「盲」「督」「面」等など、変身してわからなくなっていますが、実は古代文字を見ると「夢」や「民」「臣」という字の中にも目が入っています。

直・金文

直/金文3000年前

そのいろいろな「目」の入った字の中から今回は「直」という漢字を取り上げます。

「直」という字の「目」の上の「十」の形は「眉飾り」を表しています。古く、目の上を縁取りすると「目」の力が強まると信じられていました。今でいえば、アイシャドーや歌舞伎の「隈取り」などを思い浮かべるとイメージが伝わるかと思います。眉飾りをして目の力を強め、見る力を高めているのです。

その力を強めた目の横にローマ字の「L」に似たパーツがあります。これは「壁」を表します。壁の横に眉飾りをした目がある形です。本来なら壁があって向こう側は見えないはずです。ですが、眉飾りをつけた目で見ると向こう側が見えるのです。それは、見えているものの向こうに見えないもの=本質(真実)を見る目をもつことです。「直」とは眉飾りをした目の力で「本質を見抜く目」を持つことを示します。その目で「まっすぐに」本質をとらえ、不正を「ただす、なおす」のです。

徳・金文

徳/金文3000年前

そうした本質を見抜く目を持つ素直な心の持ち主こそ「徳」のある人でした。「徳」という字の中にも「眉飾り」をした「直」の目があります。古くは「徳」は「徳・旧字1」「徳・旧字2」と書いた字です。

省・金文

省/金文3000年前

他に同じ発想で作られた字が「反省」の「省」。今は「少」と書く部分が、ものを見抜く力を高めるための「眉飾り」を表しています。その本質を見る目で言動を見つめなおし、悪いところをただすことを「省」=「かえりみる、はぶく」といいます。

目でものを見ることは単に物を網膜に写すということだけでないことが、これらの字を見ているとよくわかります。「目」の上に飾りをつけ、「目」に力を与えてやれば、「本質を見抜く力」・「悪いことを正す力」、まさに「見えないものを見る力」を持つことができるのです。こうした「目」のパワーを教えてくれる字をもう一つ紹介します。

想・篆文

想/篆文2200年前

「想像力」という時の「想」という字です。「想」は「相」と「心」の組み合わせです。「相」は「木」と「目」との組み合わせ。木を目で見ることを表します。しかし、木を見ることは単に木を目に写すことではありませんでした。見ることで、木が持っている生命力、木の持っているエネルギーを自分の中に取り込んで、見る人自身の生命力(元気)を高めることでもありました。その取り込んだ力を遠くの人に及ぼして「おもう」ことを「想」といいました。木を見ることで木からパワーをもらい、その力で遠くにいる人に想いを届けようとしたのです。

遠くの人に「想いを届ける」には普段以上のパワーが必要だったのでしょう。そのパワーを、生命力の盛んな木を見ることで取り込んだのです。パワーを取り込む「目」の力がここでも発揮されています。「想」は、遠く「思いをはせる、思いやる」ことや「見えないものを思い描く」等の意味で用いられます。

今回でこのコーナーも50回を迎えましたが、これからも見えないリスナーの想像力を掻き立てるような漢字のパワーを届けていけたらなと思っています。

放送日:2016年6月13日