12月12日は、清水寺で恒例の「今年の漢字」が発表される日。「12月12日(いい字一字)」の漢字の日だそうです。おそらく、いろいろな予想が出ているのでしょうけど、今年は日本でも世界でも本当に「驚くこと」の多い一年でしたので、私なら「驚」という字を選びます。(結果は「金」でしたが・・・。)
驚/篆文2200年前 |
馬/甲骨3300年前 |
「驚」は「敬」と「馬」との組み合わせ。偶然にも前回(第59回)取りあげた「主」の字で紹介した「駐車場」の「駐」にも馬が入っていました。「馬」は漢字が生まれた頃から大切な動物として扱われてきました。移動手段としてだけでなく、神様の意向を敏感にキャッチする霊力がある動物としても大切に扱われてきました。現在でも「神馬」のいる神社がありますし、いないところでも「絵馬」が飾られたりしています。馬にまつわる神事が行われることも多いです。五月、京都の上賀茂神社では二頭の馬が一斉に境内を駆け抜ける「競べ馬」の神事が行われ、下賀茂神社では「流鏑馬」の神事が行われています。
験/篆文2200年前 |
馬が神との関わりを持つことから、馬を用いて神意を「ためす、調べる」ことが行われました。二人の巫女が神前で舞を舞い、馬で神意を「ためす」、それを「実験」の「験」と言います。(古い文字は「驗」と書き、(口)を捧げた人が二人いることがわかります)。
驚/篆文2200年前 |
敏感な馬の性質を神の「霊気」を感じやすい動物であるとみなすことから、神の気配を感じ、おそれおののいて馬がびっくりすることを「驚」といいます。馬の上には「敬う」という字があります。馬が神の威光におそれおののくことを表します。
騒/篆文2200年前 |
馬の敏感さは「蚤」の「かゆさ」にさえさわぐことから「騒ぐ」という字にも用いられました。現在の字は馬へんに「又=手」と「虫」ですが、古い字は「馬」に「蚤」と書く「騷」という字でした。(痒いところをかくという時は「掻く」と書きます。)
さて、私個人にとっての今年の漢字は果実の「果」です。以前扱ったことがありますが、「果」の古代文字は木の上にミカンの実の断面のような「木の実」が乗っています。
果/金文3000年前 |
「果」は木の上に生った「実」を表しています。春に新芽を出し、花を咲かせ、やがて実りの秋を迎えます。「実」をつけるのは芽から始まった最後の段階です。それで「結果」の「果」、「果たす」の意味で用いられます。今年は私にとって預けられた「宿題」を果たす年になったからです。
今年は「白川静先生没後十年」ですが、この記念の年に、先生から預けられた「自身の文字学の成果を用いた漢字学習を立命館の附属の学校で実現してほしい」という願いを、十年かかってやっとこの十一月に「第1回漢字教育公開研究会」を開催することで果たすことができたからです。それで、「果」です。実りのある年になりました。
最後に、もう一つの「果実」を報告します。これも九月の東京でのパネル展でお伝えしていたことですが、古代文字の検索システムを先日ようやく白川文字文化研究所のHPで公開することができました。古代文字のフォントをインストールしていただければ、いつでも古代文字の世界で遊べるようになりました。「無料」で公開していますので、まず自分の名前を古代文字で表すことから試してみてください。
アクセス先は「立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所」のHPです。
放送日:2016年12月12日
2017年3月16日 at 7:45 PM
昔、単純に「梵字が入っているから…」という理由で『パソコン悠悠漢字術』という本を買って、「今昔文字鏡」というフォントを使おうとしたのを思い出しました。
これには、諸橋轍次編の『大漢和辞典』の漢字が付属CDでフォントになっています。
こういう文字フォントの扱いって、どの時代のどの書体にすべきか、複数の書体を許すべきか、文字の大きさや中心の取り方をどうするか、文字コード番号の割り振りをどうするか、いろいろ大変な御苦労があったのでしょうね。
無償公開とは有り難いことです。