放送日:2014年8月6日

敗

前回「北」という字を取り上げたとき、「敗北」という字を取り上げました。「戦いに負けること」をいう「敗北」という熟語に、なぜ「北」という字が使われているのか話題にしました。今回はその「敗北」の中の「敗」の字を取り上げます。この字がどうして「やぶれる、まける」という意味を持っているのか、そのルーツを考えます。

それを考える前にちょっと占いの話をします。
今から3000年以上前の古代中国の人々もことあるごとに「占い」に頼っていました。いろんな占いがありました。

  •  道の四つ角(交差点)に立って最初にそこを通る人がどんなことを話しながら通り過ぎるか、それで占う「辻占(つじうら)」。日本でも長く行われていました。
  • ある場所までの歩数を数えて偶数でたどり着いたか奇数かで占う「歩数占い」
  • 鳥を使った占い「鳥占い」
  • 蛇の入ったつぼの中に手を入れてかまれるかかまれないか「蛇占い」

そうしたさまざまな占いの中に「貝を使う占い」もありました。

貝占いについて。使った貝と占い方法は詳しくはわからないのですが、おそらく、はまぐりのような貝やお金にも使われた貴重な子安貝(宝貝)のような貝を投げて吉凶を占う方法があったようです。

子安貝(宝貝)

その貝を手にいくつか持って願い事をして、さいころを振るようにぱっと投げる。
その結果、表と裏を向いた貝がどれだけあったかで願い事が「かなう」か「かなわない」を占っていたのではないかと思われます。

さて、占いの結果、思うようにならなかったらどうしたと思いますか。
自分に力を与えてくれる力がその貝にない。役に立たない貝として、打ちつけてつぶしてしまったのです。「敗」はまさにそのことを示す漢字。左側は貝。右側は攵(ぼく、むちづくり)といって棒を手に持つ形。貝を壊そうとしている姿を表しています。

「敗」は占いに負けて役立たずの貝を壊すことから生まれた漢字。(負けるの「負(ふ)」にも貝がある。貝を背負って歩く人の姿。もともとは重い荷物をになう、「負荷」「負担」の意味。のちに「勝負」の「まける」の意味となる。)

逆に「よい」結果が出た場合はどうでしょう。思い通りの結果が得られたときの漢字もあります。おめでたいときに使う漢字。一年に一回は必ず使う字ですが、何かわかりますか?

答え。自分に力を与えてくれる(加えてくれる)貝なので、「賀」といったのです。年賀、賀正の「賀」。ここにも貝があったことに気づかれていましたか。うれしい、めでたいときに使う字の「賀」は、占いでよい結果が出たことを表す字でした。

古代文字

貝(貝・甲骨)・・・3300年前。一番古い文字です。

敗(敗・甲骨)・・・3300年前。右側は貝を壊すための棒を手に持つ形。

負(負・篆文)・・・2200年前。貝の上に人が乗っている形。

賀(賀・篆文)・・・2200年前。貝に力を加えてくれる「賀」。