今年も一年の納めの月、12月となりました。皆さん、今年はどんな年でしたか。

いいこともそうでないことも様々にあったかと思いますが、漢字1字で今年を振り返ってみるとどんな漢字が浮かぶでしょうか。京都清水寺で行われる恒例行事、「今年の漢字」の発表を前に、予想してみます。

今年も昨年同様台風や大雨等の自然災害の多い年でした。とりわけ、千葉県を襲った台風19号、河川の氾濫による浸水被害は関東・東北地方を中心に被害が広がりました。

悲惨な事件・事故もありました。幼い子供たちが犠牲になる悲しい事件が後を絶ちませんでした。京都で起こった「京都アニメーション」の放火事件も衝撃的な出来事でした。沖縄首里城の火災も記憶に新しいです。

こうしてみていくと、辛く、いやな事件や事故が本当に多くありました。しかし、1年を通してみれば、今年は新たな一歩を踏み出す前向きな年だったとも言えます。

4月に平成から令和へと年号が変わり、5月に新たな天皇の即位がありました。11月に即位を内外に宣言する「即位礼正殿の儀」があり、新しい時代の幕開けを示す行事が続きました。

9月に始まったラグビーのワールドカップは、日本の快進撃もあり、日本中がラグビーファンになったような盛り上がりがありました。

「はやぶさ2」の小惑星「リュウグウ」への着陸と、吉野彰氏のノーベル化学賞受賞も日本の科学技術のすごさを示す誇らしい成果でした。

スポーツ分野では、陸上100メートルのサニブラウン・ハキーム選手が9秒97の日本記録をマーク、女子ゴルフの渋野選手の「全英オープン」優勝、米プロバスケットの八村選手の活躍など若い選手たちの活躍が目立ちました。

まだまだいろいろあるかと思いますが、「今年の漢字」はやはり明るい話題から選びたいです。

令・甲骨

令/甲骨3300年前

和・金文

和/金文3000年前

私の第1候補は「令和」です。新たな年号「令和」のどちらの字がきても今年の漢字になりそうですが、あえて絞れば、「和」です。ラグビー選手たちの団結の「和(輪)」ともつながります。

」は前回の「暗闇の謎」の中でも触れました。深い帽子をかぶり、ひざまずいて神様の声に耳を傾ける人の姿から生まれた字でした。

」は「禾」と「口」との組み合わせです。(つくり)(右側)の「口」は、ものを食べる口ではなく、願い事を入れた器=口・篆文 (さい)の形です。

部首(左側)は、普通は穀物を表す「禾(のぎへん)」ですが、白川先生はこの字の場合の「禾」は、軍隊が駐屯する場所の入り口に建てられた軍門を表す「(れき)」だと考えておられます。古く、戦争が終わって相手国と停戦の約束を交わす時、この軍門の下で「戦争をやめ、平和な状態に戻す」と「 口・篆文(さい)」を捧げて、和議を結ぶことが行われました。「和」はその和議を結ぶことを表します。「和」はまさに平和を神に誓うことを表す字です。

それによって、「やわらぐ、やわらげる、なごむ、なごやか」の意味を持つ平和な状態を表す字となりました。これからの世の中が「和」の時代でありますように。香港の状況や中村哲さんが襲われたアフガンの情勢を見聞するにつけ、強く願わずにはいられません。

新・甲骨

新/甲骨3300年前

新・金文

新/金文3000年前

第2の候補は、「」。新しい時代になったこと。様々な新記録(初めての快挙)が生まれた年だったとの理由で候補に挙がりそうですが、「新」は10年前の2009年(民主党政権の誕生等)にも選ばれています。2回選ばれているケースもありますので、有力候補の一つです。

「新」は「辛」と「斤」との組み合わせ。「辛」は大きな取っ手のある針の形「斤」は刀・ナイフの形からできた字です。人が亡くなるとあたらしい位牌を作るために、材料の木が選ばれます。大きな取っ手のついた針を投げて当たった木が選ばれ、「あたらしく」切り出されます。そのことを表す字が「新」です。その儀式によってつくられる「位牌」は多くは「おや」であったので、その位牌を拝む姿から「親」という字ができました。位牌に用いたあとの残った木は、揃えられて「火祭り」用の「薪」として使われました。亡くなった人のためにあたらしく作った位牌から生まれた字が「新」でした。

元・甲骨

元/甲骨3300年前

元・篆文

元/篆文2200年前

第3の候補は、「元年」の「」。「元」は人の「首」を強調した字です。横向きの人の形の上に首から上が線で示されています。人にとってとても重要なところですので、「おおもと」の「もと」を示します。元祖、元首などと用います。

第4候補以下は自然災害や暗いイメージから。「台風」の「風」、火災の「火」、「闇営業」の「闇」、水害の「水」等ですが、今年は選ばれないのではと思っております。

追伸:放送後の12月12日に「今年の漢字」が発表されました。当たったような、当たらなかったような、なかなか微妙な結果となりました。「令と和」どちらも可能性があると思いましたが、残念ながら「和」ではありませんでした。でも、第1位が「令」、第2位が「新」、第3位が「和」で、一応候補に挙げた漢字のうち3つは3位以内に入っていました。

放送日:2019年12月9日