今回は、「アフタヌーンパラダイス」(FM世田谷)月曜日のテーマ「質の良さ、質の悪さ」に便乗させてもらいます。
取り上げる漢字は「質」。
質が良いとか悪いとかという使い方の他に「本質」とか「質問」、「実質」といった熟語の中にも入っています。その「質」の成り立ちは何かという話です。
質/金文3000年前 |
質/篆文2200年前 |
「質」は、「斤」が二つと「貝」との組み合わせです。多分、海の貝と関係がある字ではと思われたでしょ。でも、前回、前々回のラジオで扱った「田」という字のように、同じ「田」というパーツでも、ルーツが違うというあの話を思い出してください。田がつけば、みんな「田んぼ」に関係しているかというとそうではないという話でした。
それと同じように、今回の「貝」も「貝」と同じ形をしていますが、ルーツの違う字なのです。(こういうところが漢字の成り立ちを考えるときに紛らわしいところなのですが・・・)
ではこの「貝」は何か。この字は、祭りのときに用いられた青銅器の形からできた字です。古く、3本足をした「鼎」という器がありました。写真で示すと次のような器の形をしています。丸い形をした「円鼎」と四角い形をした「方鼎」とがあります。
下の古代文字(金文)を見ると 海の貝とは違う形で表されている字(右側)があります。「鼎」を表す耳のような取っ手が器の上側についています。でも、どこか、貝に似た形をしているようにも見えます。
海の貝/金文3000年前 |
器の「貝」/金文3000年前 |
では、「質」にある「斤」は何でしょうか。これは、刀、ナイフです。斧という字に入っている「斤」です。「斤」=ナイフは漢字を刻むことに使われました。
古く、祭りに使う貴重な器=鼎に「重要な契約・約束ごと」を刻むことがありました。ナイフで「重要な契約・約束ごとを刻んだ器」こそが、「質」でした。
「質」に刻まれた文は、神との間、人との間で交わされる大切な契約・約束ごとです。ですから、契約・約束の一番おおもと(基本)になるものという意味で、「本質」と言いました。おおもと(基本)にさかのぼって物事を問うことを「質問」と言いました。そして、すべての基本となる事柄が書かれているので、基準、守るべき基本を示す「規則」の「則(そく・のり)」という字も生まれました。
則/金文3000年前 |
則/篆文2200年前 |
「則」は、「貝」=器と「刂(りっとう)」=刀・ナイフとの組み合わせで、「質」と同じように、ナイフで「約束ごとを刻んだ器」を表します。
損/篆文2200年前 |
最後に、鼎=器が壊れたことを表す字を紹介します。時には、誤って器を落としたり、傷をつけたり、足がおれてしまうこともあったでしょう。そのように鼎=器を台無しにしてしまう、壊してしまうことを表す字ができました。それが、「そこなう」という時に用いる「損害」の「損」という字です。
手で壊すことが多かったのでしょうか。「扌(てへん)」がついています。右側の「貝」の上の「口」は「円いこと」を示します。ですから、この場合の器は「円い形の鼎」=円鼎です。「損をする」という言い方は、お金にまつわることが多いので、この字はお金の「貝」が使われていると思われるでしょうが、もともとは器=鼎をそこなう、壊すことから生まれた字でした。
「貝」は「貝」でも、海の貝とは全然違う「貝」をルーツに持つ字がありました。もともと似ていた字が、長い間に次第に集約されて、同じ字になっていくことがあることを、今回の「貝」の字も教えてくれています。
放送日:2020年6月22日
コメントを残す