合・金文  会・金文

新型コロナの感染が再び拡がって、また外に出かけることがためらわれる事態になってしまいました。気が合う仲間と出会えないもどかしさを感じておられる方も多いかもしれません。人と物に「あう」ことをこんなに気にしなくてはならない時代になるとは夢にも思いませんでした。

あれやこれやの思いから、今回は、「合う」と「会う」という字を取り上げてみます。

合・金文

合/金文3000年前

会・金文

会・會/金文3000年前

「合」と「会」には共通するパーツがあります。字の上側にある屋根の形に一本棒の「合・上パーツ2です。古代文字(金文 3000年前)を見ると、アルファベットのAを少し平たくした形(合・上パーツ)をしているものもあります。これは何か。それを考えるために、まず「合」の字の成り立ちから考えてみます。

「合」は、「合・上パーツ2」と「口」との組み合わせです。「口」は、「願い事を入れた器= 口・篆文(さい)」です。この場合は、物を入れた容器と考えてください。その容器の上に置かれているのが「 合・上パーツ」です。これは容器の上にのせてある「合・上パーツ2 」=「(ふた)です。

蓋が容器にぴったりくっついていることを表わす字こそが「」というわけです。ですから、「ぴったり、ひとつになる、一致する」などの意味を持つようになりました。「合同」、「合致」、「合体」と用いますし、「気が合う」、「条件に合う」、「服のサイズが合う」などと用います。どれも、「ぴたっとあう、一致する」ことをベースにした用い方です。

それに対し、「」は少し複雑な字です。現代の字「会」だけを見ていると下側に器があるように見えません。しかし、「会」も「合」と同じように下側は器でした。というのも、「会」は、もとは「」と書く字でした。「会」は、その字の省略形です。ですから、古代文字は、もとの形の「會」の形になっています。

その「會」は、「合・上パーツ2」と「会・パーツ1」と「会・パーツ2」の組み合わせです。「合・上パーツ2」は。「会・パーツ2」は、「容器」です。真ん中の「会・パーツ1」は「穴の開いた蒸し器」の形です。この蒸し器を「(こしき)」と言いました。

一番下の容器に水を入れ、湯を沸かし、そこから上がってくる蒸気で、(こしき)に入れた様々な具材を蒸します。(こしき)は様々な材料を入れる鍋ですから、いろんな材料が「あつまる、あう」などの意味で用いられました。「会」も、もとをただせば、「合」と同じように器に蓋をする構造を持った字でした。

しかし、「合」と違って、「人と会う」、「先生と会う」、「大勢の人と会う」などのように、いろいろな人が集まって出会う時に用いられるようになり、「会議」や「会食」、「集会」など「多くの人が集まって話などをする」という意味で用いられるようになりました。

同じ構造から生まれた字なのに、片方は、ものに「であう」ときを、片方は、人に「であう」ときに用いるようになりました。(例:一枚の絵に出合う。人に出会う。)

今・金文

今/金文3000年前

さて、「合」と「会」はともに小学校2年生で習う漢字ですが、2年生で習う漢字の中に、もう一つ「合・上パーツ2(蓋)」を持つ漢字があります。それが、「」という漢字です。この字の中にある蓋は、どんな「蓋」でしょうか。

古代文字には、蓋に「鍵」のようなものがついていますが、「鍵」ではなくて、中に納まることを示すパーツです。つまり、蓋は蓋でも、筒の中にすぽっとはまる形の蓋です。酒を注ぐ「徳利(とっくり)」や「醤油さし」の「蓋」として用いられた蓋です。

はるか昔、「今(時間)」というような形のない抽象的な意味を持つ言葉を漢字で表す方法はありませんでした。そこで考え出されたのが、その言葉と近い音を持つ言葉を借りてきて漢字を作る方法でした。「いま」を表わす言葉と音の近い、落ち込み式の蓋を表わす「今」の字を借用して、時間を表わす「今」の字を作りました。「当て字」のような方法ですが、そうして作られた漢字が「今」でした。

」、私たちは人と「出会う」ことも、様々なものと「出合う」ことも、思うようにいかない時間を過ごしています。どこまで続くかわかりませんが、この「コロナ」という厄介なものとの出合いは、「出遭い」と書くほうが正確かもしれません。本当に偶然出合ったという思いを表わすなら「出偶い」という言い方もあるかもしれません。「であい」は多様です。

放送日:2020年7月27日