云・甲骨

京都はここ数日夏らしい暑さが続いています。昼過ぎになるとあちこちに入道雲(積乱雲)が発生し、夏本番といったところです。

京都では昔から入道雲がどこからやってくるかで名前がつけられていました。丹波地方で発生して京都にやってくる「丹波太郎」、南方の奈良方面からやってくる「山城次郎」、滋賀県で発生し、比叡山(ひえいざん)を超えてやってくる「比叡三郎」などがありました。かつては、丹波地方で発生した積乱雲が一番激しい夕立をもたらしたので、「太郎」の名がかぶせられたと言われています。

雲・甲骨

云/甲骨3300年前

雲・篆文

雲/篆文2200年前

はるか昔、古代中国の人々も空に漂う雲を「生き物(精霊)」としてとらえ、名前をつけていたと言います。「」という字のもとの字は「あめかんむり」を取った「(うん)」です。古い文字(甲骨)では縦になった二本線の下からくるっと巻いた線が出ています。二本線は雲の本体を表しています。くるっと巻いたところ(現在の字ではカタカナの「ム」に当たるところ)は、「雲の中にいる龍が尻尾を出した姿だ」と白川先生はおっしゃっています。

雷

雷/金文3000年前

雷・篆書

電/篆文2200年前

雲の中には神聖な生きもの=龍が住んでいました。その龍が住む場所だから、丹波太郎と同じように雲に名前をつけて「生き物もの」のように扱ったのです。その生きものの龍がひとたび暴れると激しい(かみなり)となって人々を恐れさせました。

雷は「稲光と音」とからできた漢字です。古い文字(金文)の「S」の形は地上に走る稲光、横の棒(一)は同じく水平に走る稲光を表しています。その周りに〇に十字の形のものが4つあります。四方に広がる音を表しています。(電電太鼓のもとになった形かもしれません)その雷の稲光を強調した字が「電気」の「電」です。稲光こそ電光です。

申・甲骨

申/甲骨3300年前

申・篆文 申・篆書

申/篆文2200年前

その電の「 あめかんむり」の下の( 雷・パーツ)のもとの字は「」です。「申」は上下、左右に走る稲光からできた字です。この稲光の形こそ、「」という字の最初の形になりました。

神・金文

神/金文3000年前

雲の中に龍が住み、その龍が暴れる人知を超えた姿から「神」という字は生まれました。まさに「神はかみなりさま」だったのです。

虹・甲骨

虹/甲骨3300年前 二つの顔を持つ龍として描かれています。

その暴れる龍も穏やかになる時があります。雲に住む龍が(黄河の)水を飲みにやってくる姿です。それが「」という字になりました。

「虹」に「虫」があるのは爬虫類(蛇)を大きくした姿が龍だととらえていた古代の人々がいたからです。「工具」の「工」はものを半円形(湾曲)に曲げる道具。虹の半円形の形を表しています。地上から天を見上げると天は半円形に(湾曲して)見えます。だから「空」という字にも「工」が入っています。

雨上がりの空に美しい虹が姿を見せたら、龍が水を飲みに来た姿だと思って眺めてみてください。暑い夏の日、もくもくと湧き上がる奇抜な雲がでたら、龍が住む雲だと思って眺めてみてください。きっと生き物のように見えてくるはずです。虹と雲、ひととき、想像力を掻き立てて楽しんでみてください。

放送日:2021年7月26日