牛・甲骨

牛/甲骨3300年前

馬・甲骨

馬/甲骨3300年前

美・甲骨

美/甲骨3300年前

漢字は物の形をかたどった「象形」と呼ばれる文字が始まりでした。

」という字は、立派な二本の角を持つ牛を正面から見た形から生まれました。「」は長い顔とたてがみをシンボルに、全身形で表されました。「」も左右に角をもつ全身の姿から生まれた字です。そんな、動物たちが、漢字の中に紛れ込んで新しい漢字を作りました。

例えば、「」は、「羊」と「大」との組み合わせでできた漢字。大きな羊(立派な羊)は、美しかったのです。今の漢字の中には、そこに動物が隠れていることさえ気づかないで用いている漢字がいくつもあります。今日はその中から4つ紹介します。

善・金文

善/金文3000年前

善

善のもとの文字

最初に紹介した「羊」は、美しいという字の中に隠れていましたが、他にも「羊」が隠れている字があります。その代表的な字が「善悪」の「」です。よく見ると、上側に羊がいます。今はその下に口がありますが、もとの字は少し違っていました。神聖な羊を真ん中に両側に言語の「言」という字を書いた「(ぜん)」という字でした。この字は古代中国での裁判を表す字です。原告・被告双方が神の前に神聖な羊を差し出します。その神の前でウソ偽りのないことを言い合って(だから言という字が羊を挟んで二つあります。)、神の裁判を受けて正否をつけました。その結果、神の意思に沿った側=正しい側が「善(よい)」となったのです。

では、神はどのように善悪を判断したのか、詳しくはわかっていないのですが、裁判に登場する神聖な羊は、「解廌(かいたい)」とよばれ、神の意思を伝える役目を果たしたと言われています。悪い側を見抜き、鼻をこすりつけ、悪をただす仕草をしたのです。こうした古代中国の裁判は「羊神判(ようしんぱん)」と言われました。裁判に登場する神聖な羊がいたのです。そして、その裁判に勝ったことを表す字が「善」だったのです。意外なところに羊がいました。

器・金文

器/金文3000年前

旧字体

(旧字体)

次は、容器の「」です。どんな動物かわかりますか。「大」の回りに願い事を入れた 口・篆文(口=さい)が4つもある字ですから、動物は「大」の部分です。そこで、古い文字を見るとすぐにわかります。 口・篆文(口=さい)の真ん中にいるのは犬です。器の真ん中には犬がいるのです。

旧字体までは大ではなく犬だったのです。なぜ犬がいるのか。犬は汚れをはらうためのいけにえでした。器はお祭りに使う大切な器。その器を清めるためにいけにえの犬を供えたのです。「器」の始まりは、清められた特別な入れ物だったのです。

焦・金文

焦/金文3000年前

次は、「焦る」というときの「」。「灬(よつてん)」の上にいるのは「隹(鳥)」です。「灬」はこの場合は「火」です。火の上に鳥がいる構図は「焼き鳥」です。下から火が来たら、鳥も焦りますよね。

最後は、少し難しいです。現在の字では、お金の「万」と書きます。その「万」の古い字形を知っていますか。「よろず」と言って、「」と書く字です。これも旧字体まで使われていました。現在の「万」ではない古い方の「萬」という字の中に動物(虫)がいるのです。

古代文字を見るとすぐにわかります。そうして古い方の「萬」を見ると確かにその虫が形を変えているなと納得するのです。でも、成り立ちを知らない人は多分思いつくことは難しいかもしれません。

では、古い文字を見てください。

萬・甲骨

萬/甲骨3300年前

萬・金文

萬/金文3000年前

これは「サソリ」です。「万」という字の旧字体「萬」は、サソリの形からできた字でした。なぜ、「萬」の字になったのか。詳しくはわかりません。もともとは「サソリ」の意味で用いられた字が、「萬年」のように数を表す字として早い時期に置き換わったようです。すでに3000年以上前には数を表す字として用いられていました。この「萬」の古代文字は、見ると忘れられない字です。古代の人々の象形の見事さに感心します。

まだまだ探せば、漢字の中に上手に身を隠している動物の姿が見つかるかもしれません。是非探してみてください。

放送日:2021年11月8日