前回、動物が隠れた漢字の話をしました。動物が隠れているのですから、人が隠れた漢字もあります。今回はそんな漢字を紹介します。
竝・並/甲骨3300年前 |
立/甲骨3300年前 |
最初は、二人の人が左右にならんでいる形からできた字です。一人ずつ立っている姿は、「立」です。「立」は一定の位置に立つ人を正面から見た形からできた字です。旧字体は、立が左右にならんでいる形=「竝」ですからわかりやすいです。今は少し形を変えているのでわかりにくいですが、文字通り横に「並ぶ」と言うときの「並」です。「並」は二人の人が横に並んだ形からできた字でした。
比/甲骨3300年前 |
人/甲骨3300年前 |
二つめは、右を向いたふたりの人を並べた字です。それは「比」、「比べる」です。人を横向きに並べて背の高さや大きさを比べることをしたのかもしれません。人を二人並べて「くらべる」姿から「比」はできました。カタカナの「ヒ」のように見えるパーツは右を向いた人だったのです。
從・従/甲骨3300年前 |
從・従/甲骨3300年前 |
三つめは、右ではなく、左を向いたふたりの人を並べた字です。左側の古代文字(甲骨)を見ると後ろの人が前の人についていくような格好です。右側の古代文字(甲骨)には道を表す「彳」があります。道をついていく人、つまり、「従う」という字の「従」です。古い文字は、人が二人いる「從」と書きました。
旅/甲骨3300年前 |
四つめは、左を向いたふたりの人がいますが、先頭の人は旗を持っています。旗を立てた先頭の人に従って進む人たちを表しています。現代でいえば、バスガイドさんが旗をもって、人々を従えて見学先に行く姿でしょうか。「旅行」の「旅」、「たび」という字です。旅と言えば楽しい気持ちになりますが、古い時代は物見遊山の旅ではなく、軍隊を率いて敵国へ攻めていくことでした。先頭が立てている旗は氏族の旗で、その旗の下に結集して敵国へ向かったのです。軍隊を表す「〇〇旅団」という言葉が今も残っています。
化/甲骨3300年前 |
北/甲骨3300年前 |
最後は、頭を上に向けて横たわっている人と背中合わせに頭を逆さまにして横たわっている人の姿からできた字です。(古代文字を見るとよくわかります)頭を上に向けている人は生きている人。逆さまになった人は死んだ人を表しています。生きていた人が死んだ姿になるように、すべてのものは変化しながら生死を繰り返していくので、変わること、変化することをいいます。それで、「化ける」という字の「化」となりました。「お化け」は本当に「死んだ人に変化した人」だったのですね。ここにもカタカナの「ヒ」があります。他にも、背中合わせの人からできた「北」という字の中に「ヒ」があります。人の姿がこんな形に変化して使われているのです。
今日紹介した「並ぶ」も「比べる」も「従う」も「旅」も「化ける」も普段よく使う字ですけど、その字に人が入っているとはちょっと気づかないです。でも、古代の文字を見るとちゃんとそこに人がいて、成り立ちを教えてくれます。単純に形象化された人の姿が組み合わせによって様々な意味を持つ漢字となって受け継がれています。
放送日:2021年11月22日
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