放送日:2014年8月18日 ~光部愛さんの懐妊報告を受けて~

身

古代中国の人びとは「おなかの中に赤ちゃんがいること」をどんな漢字で表現したのだろう?

「懐妊」とか「妊娠」ということばがあるので、「妊」とか「娠」という字で。「はらむ」ともいうので、「孕む」これは難しい字ですが・・・。「受胎」こんな言葉を知っている方もおられるかも。確かにおなかの子を「胎児」というなどいろいろな言い方がありますが、もっと身近な漢字で「おなかに赤ちゃんがいること」を表す字があります。上の古代文字①です。おなかがふくらんでいることをうまく表しています。

これは何という字の古代文字でしょうか。

答えは「身」。身体と使うときの「(しん)・(み)」という字。「身ごもる」といいます。おなかが大きくなった女の人を横から見た姿です。のち「からだ」を表す字として使われるようになって、本来の意味ではほとんど使われなくなった字なのです。古代文字をよく見ると「身」という字に見えてきませんか。身という字にもおなかのふくらみがちゃんとあるのです。

包

さて、もう一つ。おなかの中に赤ちゃんがいることを表す字があります。古代文字②を見てください。なんという字でしょうか。

答えは「包(ほう)」。「つつむ」の意の包は、もとは「おなかの中に赤ちゃんがいる」形でした。「己」と書かれているところが「赤ちゃん」を、「勹(ほう、つつみがまえ)」がお母さんを横から見た形を示しています。お母さんのおなかにつつまれている赤ちゃんの様子を表しています。のちに「包」がすべて「つつむ・いれる」のように広い意味で用いられるようになって、本来の赤ちゃんがお腹にいるという狭い意味では使われなくなってしまった字です。

 

では、赤ちゃんができたことを言う「妊娠」という字はどうでしょうか。この二つの字も「おなかに赤ちゃんがいる」ことを表す字なのです。

妊」は、左側が「おんなへん」。右側が壬(じん)。壬は以前取り上げた虹の「工」と一緒で、真ん中が膨らんでいる工具(道具)のことです。→古代文字③

だから、おなかに赤ちゃんができて膨らんでいる女の人を表す字です。→古代文字④

」は右側が「辰」(しん・たつ)。これは、蛤などの貝が足を出して動かしている姿を表し、「うごく、うごいている」などの意味を持っています。

だから、「てへん」をつけると手を「る」という字になり、辰の下に口をつけると口を動かす「(くちびる)」という字になります。雷が鳴るとびりびりっと空気を振動させる。「雨かんむり」に辰で「える」となり、地をふるわせることを「地震」といいます。「辰」のつく字は、どの字も「うごく」の意味を持っています。

そこで、お母さんのおなかの中で赤ちゃんが動くと「おんなへん」に「辰」で「」となるわけです。

「娠」はお母さんのおなかの中で赤ちゃんが動くことを表す字です。→古代文字⑤

 

このように、おなかに赤ちゃんがいるということを表す漢字だけでも、身体の「身」、つつむの「包」、 妊娠の「妊」・「娠」。さらに「乃」と「子」の「孕む」→古代文字⑥といくつもあります。

古代の人々にとっても、赤ちゃんが生まれることは特別大切なことだったので、さまざまな字が生まれたと考えられます。

古代文字

③    ④    ⑤    ⑥

壬  妊  娠  孕

(壬)  (妊)  (娠)  (孕)