京都の街もようやく紅葉に染まり始めました。鮮やかなカエデの赤が映える月ですが、11月の京都は「火」の月でもあります。
火と言えば、大文字の送り火が有名ですから、夏のイメージかもしれませんが、11月の京都では、あちこちの神社で「お火炊き祭」が行われます。社の前の火床の上に、木を積み上げ、火を燃やし、燃え盛る炎に願い事を書いた、お火炊き串(護摩木)を投げ入れ、願い事の成就や魔除けの祈願をします。
京都市内のお菓子屋さんではこの時期に合わせて「お火炊き饅頭」が売られたりします。そんな「火の月」=11月ですので、今回は「火」にまつわる漢字を取り上げてみます。
主/金文3000年前 |
主/篆文2200年前 |
柱/篆文2200年前 |
注/篆文2200年前 |
まずは、燃える「ほのお」の形から生まれた字です。古い文字は「ほのお」そのもの(左上側)です。その「ほのお」の形が、燭台の上に乗せて燃える「ほのお」の形(右上側)へと変化し、今の「主」という字になりました。「主」の一画目の「点」が「ほのお」、その下の横棒が「油皿」で、その下の「土」が燭台の形からできました。
それにしても、その字が「あるじ、ぬし」という意味を持つのは、古代の人々が「火」の大事さを実感していたからです。「火のような存在(の人)」こそが、「あるじ、ぬし」だったのです。それは家の中でいえば、「(大黒)柱」(左下側)であり、そこは人が「住む」大切な場所でもありました。
ロウソクが誕生するまでは、皿の中の灯芯(綿糸などを撚り合わせて作ったひも状のもの)に油をひたして火を灯しました。油が切れれば、火も消えますから怠らずに油を入れます。そこから「注意」の「注」、「注ぐ」という字(右下側)もできました。(参照:第59回ブログ「炎からできた漢字」)
次は、ほのお(火)が二つ並んだ字です。縦に二つ並べれば「炎」という字ですが、火が横に二つ並んだ字もあります。(今私たちが使っている字(新字体)には入っていないので、思いつかない方もおられるかもしれませんが)
榮・栄/篆文2200年前 |
/篆文2200年前 |
上記の左側の字を見ると、上側に「火」が二つ並び、下側に「木」があります。この字は「栄」、「栄える」という字のもとの形です。旧字体は「榮」。上側に火が二つある形でした。旧字体まで古い字形を受け継いでいました。
右側の字は、なじみのない字ですが、「 (えい)」という字で、火が二つあります。組んだ木の上で燃え盛るかがり火(たいまつ)の形から生まれた字です。そのかがり火が燃えている姿が、「榮」の字の上側の二つの火です。夜の宮殿にかがり火が焚かれ、煌々と夜の庭や建物を照らす様子は、さぞかし華やいだ雰囲気に包まれたに違いありません。そこから、「榮」はさかえること、勢いが盛んなことをいうようになりました。
勞・労/篆文2200年前 |
營・営/篆文2200年前 |
他に「榮」と同じ構造で作られた漢字には「勞・労」と「營・営」があります。
「勞」は「(けい)」と「力」との組み合わせ。かがり火が燃えさかってあたりを照らし続けるように、仕事に力を尽くし続けることを表す字でした。「力を尽くす」ことから「はたらく」・「疲れる」・「ねぎらう」等の意味に用いられるようになっていきました。
「營」は「(けい)」と「呂」との組み合わせ。「呂」は宮殿のような建物を表します。白川先生は、「かがり火をたいて宮殿や兵舎などの警戒に当たること」。昼夜を問わず、宮殿や兵舎を守る仕事にいそしみつとめることから「いとなむ」の意味になったと言われています。今も、大切な建物は昼夜を問わず警戒を怠らないのと一緒ですね。
京都の紅葉の名所では、ライトアップが始まっています。現代は、「火」ではなく「ライト」のお陰で、闇の中に鮮やかに浮かぶ紅葉を堪能することができます。ライトアップに浮かび上がる紅葉の美しさ、あでやかさを愛でる私たちの心の華やぎに「榮」の文字がぴったり合うような気がしてきます。
「火」は、魔除けだけでなく、私たちに「心の華やぎ」を教えてくれる存在でもあります。
放送日:2022年11月14日
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