戦・金文

師走に入り、今年も残すところ、あと20日ほど。今日は、漢字一字で今年を振り返る、恒例の漢字検定協会主催の「今年の漢字」の発表がある日と重なりました。すでに、このコーナーが始まるまでには、「今年の漢字」が何になったのか、結果はわかっているはずですが、私の「今年の漢字予想」も恒例にしていますので、私の予想が当たったのかどうかも含め、報告したいと思います。

今年は明るい話題の少ない年でした。というより、私たちの心を重ぐるしくさせる出来事が多かった気がします。2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、今も続いています。

コロナも相変わらず一進一退を続けています。7月には安倍元首相の銃撃事件があり、統一教会の問題が大きな話題となりました。最近やっと、サッカー日本代表の活躍で元気を取り戻したような感じですが、振りかえると、やはり、気の重い1年になってしまいました。

戦・金文

戦/金文3000年前

争・篆文

争・爭/篆文2200年前

そこで「今年の漢字」第1候補は、戦争にまつわる漢字になりそうな気がします。ズバリ、「戦争」の「」、「いくさ」という字か、あるいは、「戦争」の「」、「あらそう」という字のどちらかが、本命な気がします。

その二つの漢字の中では、「戦」が2001年の「今年の漢字」に選ばれています。2001年9月にアメリカで同時多発テロが起こり、そのあと、「イラク戦争」が始まり、文字通り「戦」の年になりました。これまでも複数回選ばれる漢字はあるので、まず「戦」が第1の推しです。また、戦争よりはるかに平和的ですが、サッカーの「ワールドカップ」も「戦い」の中には入っています。「」という字は、「単」と「戈」との組み合わせからできた字。「単」は「楯(防御的な武器)」を表し、「戈」は、長い柄の先に鎌のような刃をつけた武器(攻撃的な武器)です。戦とは防御と攻撃、二つの武器を組み合わせた漢字です。

」のもとの字は「つめかんむり」をつけた「爭」。「一本の棒を手と手で引きあう形」から生まれた字です。運動会の「棒取り」ゲームのようなイメージの字です。「争う」もこの程度の取り合いですむなら平和なのですが・・・。

撃・篆文

擊/篆文2200年前

第2の候補は、「衝撃」の「」です。戦争の開始も、安倍首相の「銃撃」も「衝撃的」でした。円安も物価高も「衝撃」。とにかく衝撃づくめの1年でした。その上、最後にはサッカーの「快進撃」まで見せてもらえました。

「撃(擊)」は「車」と「殳(るまた)」と「手」との組み合わせ。「車」は、もとは車ではなく、袋のことでした。「殳」は棒でたたくこと。袋に入った穀物を棒でたたいて脱穀することを表します。手でたたくことを強めるためにさらに下側に「手」を添え、手で強い力を加えることを表します。それで、「うつ、攻める、たたかう」の意味で用います。この字も気の重い今年にピッタリな感じがしますが、少し難しい漢字なので、皆さんが思いつくかどうかが問題です。

変・戦国文字

變・変/戦国文字 2500年前

第3の候補は、変化の「」。「変」の旧字体は「變」。「(れん)」と「攴・攵(ぼく)」 との組み合わせ。「(れん)」は、神への誓いの言葉を入れた器に、まじないの糸かざりをつけた形。「攴・攵(ぼく)」は手に棒をもってものをうちつける形。棒で器をうって誓ったことをやぶって変える(あらためる)の意味となります。

最近は、統一教会の「被害者救済法」のように大きな事件や事故が起こらないと、これまでのやり方をチェンジできないというのがなんとも歯がゆいところですが。それでも、いろいろな場所で「これまでのやり方はどこか変だよな」という声があがってきているように思います。社会の中でのささいな変化が確実に実を結んで、やがて大きな変化をもたらす、そんなきっかけとなる年であったといえるといいなと思っています。

放送日:2022年12月12日