瀬・篆文

今年も「年の瀬」を迎えました。ウクライナ、コロナ、物価高・・・どれをとっても気の重くなるような1年でしたが、いよいよあと数日となりました。

12月の終わりの時期を表す言葉には、「年の瀬」もあれば「年の暮れ」、「年末」「歳末」等などいくつかの言い方があります。どこか、微妙なニュアンスの違いはありますが、みんな「1年の終わりの時期」を表す言葉です。こんなにいくつかの言い方があることも日本語の豊かさなのでしょうが、どの言葉を選ぶかは、その時の気分が反映しているかもしれません。今日は、「1年の終わりの時期」を表す言葉に使われている漢字を取り上げて、その微妙な違いを探ってみます。

最初は「年の瀬」です。それにしても、1年の終わりの時期を「年の瀬」とは、なかなかうまくいったなと思います。「瀬」という漢字が入っているだけで、「せわしなさ」・「あわただしさ」が漂います。

瀬・篆文

瀬/篆文2200年前

」という漢字は「氵(さんずい)」と「(らい)」との組み合わせ。(つくり)の「頼」は、音読み「らい」を表すとともに、水が石を越えて流れる音を写した擬音語の役割があるとも言われています。ですから、「瀬」は、「石の間を音をたてて流れている川の浅いところ」を指します。訓読みは「せ」。「狹い」の「()」と関係したことばで「狭いところ」を言います。「狭いところでは、水流も自然に急を加えるものである」と白川先生は『字訓』でおっしゃっています。どおりで、川の流れが速度を増すように、せわしく、あわただしく時間が過ぎ去っていく感じがよく伝わるわけです。ですが、同時に「名残惜しさ」を感じさせるところも、「年の暮れ」らしいです。

暮・莫・金文

暮・莫/金文3000年前

次は、「年の暮れ」です。「暮れる」の「」は「草と草との間に日(陽)が沈む様子」からできた字です。「日が沈む」ことから、文字通り、「1日が終わる、くれる、暗くなる」ことを表す字でした。古代文字を見ると、草と草の間にお日様があります。その字は、現在の「暮」の下側にある「日」を取った「(ぼ・ばく)」という字です。最初はこれだけで、「暮れる」の意味を持つ字でしたが、他のパーツと組み合わさっていろいろな字を作るようになって、(例えば、土と組み合わせて、「墓」、「(きん)」と組み合わせて「幕」、したごころ(したごころ)と組み合わせて「慕う」等)「くれる」という字にもう一つ日をつけて「暮」という字を新たに作りました。1年の幕が下りる。おしまいという感じがよく出ます。

末・篆文 末・金文

末/金文3000年前

3つ目は「年末」の「」です。「末」は木の枝の先、(こずえ)、末端を表す形からできた字です。木の上の方に、先端を表す「肥点(ひてん)=丸い点」がついています。木の根元に「肥点(ひてん)」をつけると、「本」という字になります。根本から始まって1年がいよいよ先端まで来た、一番先っぽまで来たという感じが出ます。1年の時間の経過を感じられる言い方です。

歳・甲骨

歳/甲骨3300年前

最後に「歳末」の「」です。「歳」は、3300年前の時代からある字ですが、その成り立ちはもう一つわからない字の一つです。古い時代には、祭の名前で使われています。文字の中に、(まさかり)の形があるので、お供えものに肉を捧げてまつる大事なお祭りで、1年に1回行われたことから、「1年」を表す字として使われるようになったと白川先生は考えておられます。

今、私たちは年齢を表わす時、「~歳」という言い方をします。自分の誕生日が来て、1歳年を取りますが、昔は「数え年」と言って、正月が来るとみんな一歳年を取っていました。私の田舎では、今でも12月31日に「年取り」という行事をします。新たな正月を迎えるとみんな1歳年を取るのです。ですから、今年の「歳(とし・年齢)」の終わりなのです。そうだとすれば、「歳末」とは年齢の終わりを意識した言い方だということになります。「この年齢で過ごす時間もあとわずか」そんなニュアンスを「歳末」は持っている気がします。「お歳暮」も、年末の親しい人への贈り物という意味で私たちは用いていますが、文字通り「歳の終わり」の意味だと考えることができるのかもしれません。

「年の瀬」・「年の暮れ」・「年末」・「歳末」・・・どのニュアンスの「1年の終わりの言葉」が今の気分にピッタリでしょうか。暗い話題の多かった今年ですが、どうか来年は良い方向に向かっていきますように。心から念じる「年の暮れ」です。

この1年、このコーナーをお聴きいただき、ありがとうございました。皆様、良いお年をお迎えください。

放送日:2022年12月26日