明けましておめでとうございます。年の初めは干支の話から始めます。
今年は、十干十二支でいうと40番目の「癸卯」。兎年です。
「干支」は「十の幹」と「十二の枝」、十干十二支の組み合わせからなり、60年で一回りする数の数え方です。今年は、干支で言えば40番目の年に当たります。
「干支」の歴史は古く、漢字が生まれた中国の商(殷)という国ではすでに3300年以上前から使われていました。亀の甲羅や獣の骨に刻まれた占いの文章には、占った人が誰かとともに、何月の何日にそれを占ったかが、「干支」で示されています。
「干支」を用いる歴史は、そんな古い時代から始まり、日本に伝わって今日まで使われてきたのですからすごいことです。しかし、その「干支」の「十二支」に動物の名前を当てはめたのは、使われ始めてから1000年以上も経った秦の始皇帝の時代(2200年前)の頃だと言われています。ですから、3300年以上前から使われた「十二支」の漢字は、動物の名前とは直接関係がなく、後になって「音」を借りて「当て字」として用いたものでした。
今年の「癸卯」は音だけでいうと「きぼう」ですから、読みどおり「きぼう」の年であってほしいと願いますが、成り立ちは望みを託す「希望」とは違います。
癸/甲骨3300年前 |
癸/金文3000年前 |
癸/篆文2200年前 |
「癸卯」の「癸」の古代文字(金文)は、ワッフルの模様のような面白い形をしています。ですが、これは模様ではなく、器を置くための台座の形だそうです。白川先生は『字通』の中で「木を十字形に交差して組み、地面に置いて安定した(台)座となる」形だとおっしゃっています。「癸」の古代文字は、今の字からは、なかなか想像しにくいですが、器を置く台座の形から始まった字でした。
卯/甲骨3300年前 |
卯/金文3000年前 |
卯/篆文2200年前 |
次は「癸卯」の「卯」です。音読みは「ボウ」。訓読みは「う」。「うさぎ」を表す字になりました。
が、漢字の成り立ちは、「うさぎ」のようにかわいらしくはありません。白川先生によると、この字の始まりは、牲肉(いけにえの肉)を二つに分けた形です。古代文字は、確かに左右対称に二つに分かれています。しかも、真ん中に丸い肉の塊があるように見えます。これも、現在の字だけを見ているだけでは、成り立ちがよくわからない字です。この字は、祭りの時に肉を二つに分けて神に捧げた形ですから、「うさぎ」とは全く関係がないのですが、「うさぎ」を表す字に使われるようになりました。
余談ですが、「卯」は、時間の午前5時~7時までを指す言葉としても使われました。唐の有名な詩人白居易に「卯時の酒」という詩があります。酒は卯時に飲む酒が最も人に力を与えてくれる酒(おいしく飲める時間)だという詩です。さすがに、私は朝酒を飲んだことはありませんが、五臓六腑に浸みわたるおいしい酒を味わえるということでしょうか。本当にそうかわかりませんが、卯時の酒=卯酒の字に使われる「卯」の字の使い方の方が「うさぎ」より印象が強いです。
ということで、今年は「癸卯」。いくらおいしくても、卯時(早朝)から一杯ひっかけて力を得るわけにはいきませんから、「癸」の始まりのように、未来に向けた人生の台座(土台)を、しっかり作ることのできる1年であればと願っています。
さて、リスナーの方から、年賀状などでよく書かれる「謹賀新年」の「謹賀」の意味を教えてほしいとのお尋ねがあったので、簡単に触れておきます。
「謹賀新年」は「つつしんで新年のお喜び(お祝い)を申し上げます」という意味で使われる賀詞(おめでたい言葉)です。多くは、目上の人に対して、相手を敬う気持ちを込め、へりくだっていうあいさつの言葉です。
謹/篆文2200年前 |
賀/篆文2200年前 |
漢字の成り立ちでいうと、「謹賀」の「謹」は、「言(ごんべん)」と「(きん)」との組み合わせです。「」は、日照りが長く続いたとき、雨を求めて必死に神に祈ることを表した字です。その時の「祈りのことば=言」が「謹」です。なんとしても、雨を降らせてほしいという強い思いで、かしこまってお願いしたので、「謹」は「つつしむ」という意味を持つようになりました。「つつしむ」に切実感があるんですね。
ですから、その「謹」と「賀=喜び」をセットにして、腰を低くして「つつしんでお喜びを申し上げます」と敬意を込めて伝えるお祝いの言葉となりました。似た言葉の「うやうやしく」を用いた「恭賀新年」という言い方もあります。
9年目を迎えた今年も干支から始めました。「癸」の漢字のように、「アフパラ月曜日」の縁の下の力持ち的役割が果たせるよう頑張っていきたいと思います。今年もよろしくお願いします。
放送日:2023年1月9日
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