結_店舗外観

紫野大徳寺門前(大徳寺通り沿い)で、すだれの向こうに白く浮き立つ「(ゆい)」の字を見つけた。真新しい看板なので、新しくできたお店なのか聞こうと中をのぞいた。老齢の女性がカウンター越しに見えた。聞くと、店は七年半前に「織物業」を営む今のオーナーが始められたお店だそうだ。なるほど、店には帯から和服、日傘、手ぬぐい、小物入れ、扇子等など、いわゆる「和装小物」が並んでいる。

七年半経っても看板ってこんなにきれいに残るものなのかと感心しつつ、それにしてもこの書体がこんなに自然におさまっているのはなぜだろう。この字は2200年前、秦の始皇帝が統一した字体「篆書(てんしょ)体」をデザイン化したものである。今の私たちでもちょっと考えれば「結」だと思い当たる。でも、現在の楷書(かいしょ)体で「結」と書いたのではこの味はでない、そんな気がする。

「結」は「いとへん」に「吉」と書く。「吉」の口は、神さまへの願い事を入れた器  口・篆文(さい)。その口= 口・篆文(さい)の上に神聖な(まさかり)の刃の部分を表す「士」がある。「吉」は口= 口・篆文(さい)の上に(まさかり)を乗せて(ふた)をし、口= 口・篆文(さい)の中に入っている願い事の文を守っている字である。鉞によって守られた口= 口・篆文(さい)は、願い事の力を永く持続させられるので、「よい、めでたい」という意味を持つこととなる。

その吉に「糸」をつけて「結」とする。糸(ひも)を「むすぶ」とは、糸(ひも)に込めた互いの思いを結び目に強く閉じ込め、願いを持続させることである。古く種々の約束事を交わす場合に、紐を結ぶことで誓約とする儀礼が行われていた。のち愛情を約する行為として用いられるようになる。互いの心を結んで、永遠の愛を誓う。「結婚」である。

「ゆい」は互いの力を出し合い、協力しあう相互扶助の精神を表す言葉である。古くから日本の各地にそうした仕組みが生まれ、長い間人々の心をつなぐ「講」を作ってきた。互いの心を結び合わせ助け合う精神は、私たちの伝統であり誇りでもある。

店の名前「ゆい」も店を訪れるお客様との「縁」という結び目を大切にしたいということからの命名であろう。この店の「結」の字は少しデザイン化されてはいるが、かっちりした白い字体が目を引く。

古代文字

吉(甲骨・金文)

吉(甲骨・金文)

結(篆文)

結(篆文)

糸(甲骨・金文)

糸(甲骨・金文)