京都高島屋にある叶匠寿庵の店でふと目に留まった最中。4つの正方形の中に古代文字がきれいに刻まれていた。名前は「大石最中」。

「大」と「石」が右斜めに描かれ、左斜めには「川」と「山」が描かれている。その字の配置を見れば、「大石」とは大石内蔵助のことだとわかるようになっている。でも、どんないわれでこの最中が生まれたのか、そこまではわからなかった。

大石最中_包装紙

叶匠寿庵は滋賀県の有名なお菓子屋さんだ。京都のお菓子屋とは違う斬新さがあるので、物珍しく和菓子を買い求めることがあった。そんなお店が妙に古風な名前の最中を作ったものだと気になったが、その時は「大」・「石」・「川」・「山」の4文字がなぞかけのように古代文字であしらわれていることの方が気になった。

「大」は、人が両手を広げて立っている姿を正面から見た形。その「大」の字の頭に横棒(―)をつけると頭のてっぺんを表す「天」の字となる。最中の枠が横棒になって「大」が「天」にも見える。

「石」はシンプルに見えるがシンプルな字ではない。そもそもなぜ石に口があるのかわからない。古代中国では、石は小さな石ではない。神が降りて来られる大きな石=岩を指す。「石・パーツ 」は、大きな岩の切り立った壁。その下に「口」を置く。その「口」は、「目鼻口」の「口」ではなく、神への願い事を入れた器=口・篆文 (さい)の意味で用いられた。大きな岩は、神が依りつく場所である。今も「ご神体」として祀られる。その場所で、願い事入れた器を捧げ、神への祈りが行われた。「石」は神をまつる場でもあった。「川」は川の流れ。「山」は山のつらなりを象った字。「山」と「川」は自然の象徴でもあるが、大石たちが討ち入りをした時の合言葉でもあった。

今回、叶匠寿庵のHPを覗いて、大石は名前の「大石」だけでなく、地名の「大石」でもあることを教わった。その上、名前と地名は偶然の一致ではなく、見えないところでつながっていることも知ることとなった。

叶匠寿庵には大津市大石龍門という地に「寿長生(すない)の郷」という里山があり、その自然豊かな地で、菓子づくり以外にも様々な自然活動に取り組まれている。そこは叶匠寿庵にとってとても大切な場所だ。その本拠の地名が「大石」なのである。その上、この地域にはかつて「大石城」という城があり、大石内蔵助の先祖たちが住んだ土地だということである。大石の地に大石内蔵助の先祖たちもいた。その大石の地「寿長生(すない)の郷」の豊かな自然を象徴するものが「川」であり「山」であった。「山」と「川」こそ本拠地「寿長生(すない)の郷」を暗示する合言葉でもあった。古風だと思った最中の名前にいくつもの思いが込められていた。あの時かけられたなぞが、やっと晴れた気がした。

店の思いが詰まった「大石最中」である。是非一度ご賞味あれ。

*「最中」の古代文字は甲骨・金文・篆文をもとにアレンジした形。最中の「最」を除けば、3300年前の甲骨文字がもとである。「最」は2200年前の秦の始皇帝の時代の字=「篆文(てんぶん)(篆書体)」である。

大・甲骨

大/甲骨

石・甲骨

石/甲骨

最・篆文

最/篆文

中・甲骨

中/甲骨

山・甲骨

山/甲骨

川・甲骨

川/甲骨

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