放送日:2014年6月2日
今回取り上げるのは「由」という漢字です。
「由」はひょうたんから生まれた漢字。古代文字ではと書きます。現在の字とよく似ています。真ん中の飛び出しているところは、ひょうたんの実がついている蔓。 実を採るときその蔓の部分で切るので、現在の「由」という字にも切った後の蔓がちょこっと字の真ん中に突き出す形で残っています。また、「由」という字に現在のひょうたんのようにくびれがないのは、大昔のひょうたんが「だるま型」をしていてくびれがなかったからだといわれています。だから、現在の角角した字よりむしろ丸いイメージが強い字だったのです。
さて、収穫したひょうたんは中のタネを全部取り出した後、酒を入れる器や飾り物などに用いられました。タネの多いひょうたんの中をからっぽにするのは結構面倒な作業です。でも、その面倒な作業の中からいくつも漢字が生まれたのです。
- ひょうたんはタネが多いのでそのタネを取るために1~2週間水につけて腐らせます。するとつけた水が腐ってどろっとした状態になってきます。そのどろどろっとした状態を表す漢字がひょうたんの由に「さんずいへん」をつけた「油」。
- 腐らせてタネをはがしやすくしたところでタネを取り出します。ひょうたんの上側(すぼんだ口)に穴をあけて手を使ってタネを取り出します。口が小さい時は細い棒でかき出します。その作業を表す字が「てへん」をつけた 「抽」。「抽選する」「抽出する」「取り出す」という意味の字となります。
- タネを全部取り出すと中はからっぽになります。その空っぽの状態を「うかんむり」をつけて「宙」といいます。宇宙の「宙」。宇宙も、宙もからっぽのようなもの。
- そのからっぽという意味から竹の節の間に穴をあけて楽器にしたものを「笛」といいます。
こんなふうにひょうたんの実の「由」という字を基本字(パーツ)として、腐ってどろっとしたひょうたんの水から「油」、ひょうたんのタネを取り出すことから抽選の「抽」、中がからっぽの宇宙の「宙」。そして「笛」という字が生まれたのです。
「油」と宇宙の「宙」とは何の関係もない字のように見えますが、実は同じルーツを持つ字なのです。
このように、漢字は一つ一つバラバラにあるのではないのです。一つの基本字をもとにつながりあい、家族を増やすように広がっていきます。古代の人々の漢字の作り方を知ると、漢字をつながりで理解するようになります。つながりを通して覚えた漢字は機械的に一字一字覚えた漢字よりずっと記憶に残ると思いませんか。ひょうたんの実の「由」から多くの漢字家族が生まれる過程は、その典型的な例のひとつです。
ちなみに、このひょうたんの由はさらに、
- 馬車などの車輪と車輪とをつなぐ空洞の棒のことを
→くるまへんにひょうたんの由と書いて 軸という。
それがないと車は回らないから、大事なもの、中心の意味となる。
- 昔の服(衣)の袖口は着物のようにひろい。ちょっとした空間が出来たので
→ころもへんに由と書いて「袖」という字となる。
- ドロッとした油のイメージから 陶芸で使ううわぐすり=釉薬のユウという字になる。
→「のごめへんにひょうたんの由」でうわぐすりの「釉」。
- タネを取り出すイメージから糸をつむぐという意味になり
→いとへんにひょうたんの由で 大島紬の「紬」という字になる。
ということでひょうたんから生まれた「由」の字は、まだまだ広がっていきます。
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