一之船入1

河原町御池「京都ホテルオークラ」の北側の細い筋(押小路通)を東へ入ると創作中華「一之船入」がある。

「一之船入」とは、かつて高瀬川を往来した高瀬舟の京都での出発点であり終着点でもある船着き場のことだ。

高瀬川は江戸時代の初めに京・大阪の物資を運ぶために角倉了以(すみのくら りょうい)によって開かれた運河である。大阪からの荷物は淀川・宇治川を通って伏見港に入り、そこから高瀬川を北上し「一之船入」まで運ばれた。伏見からの途上には荷物を上げ下ろしする場所が何か所かあり「三之船入、二之船入」と言われたが、今ではこの「一之船入」だけが当時の面影をかろうじて残している。店の北側にはお濠のように広い船溜まりが今もある。

店の暖簾に書かれた文字。篆書体でバランスよく「弌之船入」と書かれている。この字体の選択がすでに「創作中華」の創作性を感じさせる。「一」は数を数える棒=算木を一本横に置いた形。そのシンプルな字をあえて使わず異体字の「弌(いち)」とした。

no1」は暖簾の字を見ただけでは「之(の)」とは読めないが、この字は古代文字では「止」と同じ足あとの形を表す。「之」の本来の意味は、「足あとをつけてゆく、すすむ」という意味だが、ここでの使われ方は助詞の「の」の役割なので、本来の意味は持っていない。

「船」という字の(つくり)en2(えん)」には「よりそう」という意味があり、水の流れにより沿()って上下する舟を「船」という。「舟」は物を受け渡しする盤(さら、たらい)がもとの形。船も人や物を乗せて受け渡しをする道具なので「舟」が部首として使われた。

「入」は建物の入口。大きな木を組んで入口にした形で「いる、いれる、はいる」の意味を持つ。入口に屋根を付けて建物の中に入ったところを「内」という。

 

「弌之船入」の玄関を入って内に通される。小さな個室だが窓越しに船溜まりが広がる。食事をしているといつの間にか明るい日差しを受けた高瀬舟がゆるやかに船着き場に到着する、あわただしい人々の賑わいの声が聞こえてくる。そんな夢想をほんのひと時味わうのも楽しみである。

一之船入2

一之船入