今年の冬の寒さは例年になく厳しく感じましたが、ここにきてようやく春めいてきました。北野天満宮の梅は満開を迎え、山々の木々も新たな芽を芽吹かせています。
芽/篆文2200年前 |
牙/金文3000年前 |
「芽」という字は「草かんむり」に「牙」と書く字です。新しい木々の芽は、色と大きさこそまちまちですが、鋭くとがった動物の牙(犬歯)のような形をしています。しかも、「牙」はこれから伸びていく新しい芽の力強さも感じさせます。新しく生え出る「芽」に「牙」のイメージを重ねた古代の人々の観察力・想像力はすごいです。ちなみに、「牙」の古代文字(金文)は牙の上下を咬み合わせたような形をしています。
萌/篆文2200年前 |
「めばえ」を表す字にはもう一つ「萌」があります。「草かんむり」に「明るい」の「明」と書きます。明には「よあけ、あける」の意味があります。芽が出始めることを夜明けのようにとらえたのでしょうか。見えないところから戸をあけて出てくるイメージとしてとらえたのでしょうか。それで、芽が出てくることを「萌える、萌ゆ」といい、「芽」という字と併せて「萌芽」と言います。「めばえ」という意味ですが、何か新しいもの生み出す宝物が入っているような感じがします。
生/金文3000年前 |
生/篆文2200年前前 |
新たなものが「生まれる」という時の「生」も新たな草の芽が地面から出てくる様子からできた象形文字です。左側の金文には生え出た茎の途中にふくらみがあります。新しい芽が出てきたことを示します。このふくらみが800年ほど経つと横に広がって一本の棒のようになり、右側の篆文の字となります。今の「生」の字に近くなっています。
世/金文3000年前 |
木の枝葉が分かれて新しい芽が出てきたことを表す字もあります。古代文字(金文)を見るとよくわかりますが、3本に分かれた枝に新しい芽が出てきていることが短い横棒で表されています。「世の中」という時の「世」です。今の「世」の字にも、三本の枝が三本の縦棒で、新しい芽が横棒として残っています。毎年新しい芽が出て、新しい枝となっていくので、「世代」という時の「世」になりました。
葉/金文3000年前 |
その新しい木の枝に芽が出て、「はっぱ」が出てくると「葉」という字になります。「葉」は「世」と「木」との組み合わせです。木の枝に新しい芽が出て、葉っぱになることを言います。葉っぱは薄っぺらなものなので、同じように薄い羽根をひらひらさせて飛ぶ「ちょうちょ」のことを「蝶々」と書きます。(魚の鰈は「かれい」、喋るは「しゃべる」。どちらも薄っぺらいイメージです)
春/金文3000年前 |
最後に「春」という字も、古代文字を見ると、暖かな陽ざしを受けて、ようやく芽を地面から出そうとしている草の根の様子を表した字です。
寒い冬の間じっとしていた生き物が一斉に動き出す、物皆蠢く季節を迎えました。
放送日:2018年3月12日
コメントを残す