泉・甲骨1泉・甲骨2(泉/甲骨3300年前)

清らかな水のしたたりが心地よく感じられる季節になりました。今回は「」という字を取り上げます。

泉は「いずみ、地中から湧き出る水、湧き水」の意味で用いられています。古い文字(甲骨の左側)を見ると、不思議な形の枠の中に二本線があり、そこから筋となって水が流れ出る様子が表されています。おそらく、不思議な形の枠は山の崖の一部または石の輪郭です。二本線は地肌に入った亀裂または石の割れ目。そこから水が湧き出ている様子を表しています。大河につながる水の始まりを表しています。ですから、「泉」はもともと水の湧き出すところ、「みなもと(源)」の意味で用いられていました。

原・源・金文

原・源/金文3000年前

その「みなもと」を表す「」という字は「さんずいへん」に「原」と書く字です。「」は、(がけ)のような絶壁があることを示す「厂(がんだれ)」があります。古い文字を見ると、絶壁となった崖「 がんだれ」の中に「 源・パーツ 」があります。「 源・パーツ 」は「泉」という字そのものです。崖の割れ目から水が湧き出ていることを表しています。「泉」という字が、水が湧き出す割れ目の部分をクローズアップして作った字であるのに対して、「原」は崖から湧き出す水の全景をカメラを引いて写し撮った字です。近景か遠景かの違いだけで、実は同じことを表している字なのです。

「泉」も「原」も水が湧き出す「みなもと」を表す字として作られました。その「原」という字が、やがて「はら、はらっぱ、原野」を表す意味で用いられるようになったため、「さんずい」をつけて水源を表す「源」という字を作りました。もともと「泉」と「原」は同じ「みなもと」を表す字として生まれた兄弟のような間柄だったんですね。

原

原にはこんな異体字もある

確かに、現在でも「原本」とか「原点」とか「原因」などのように熟語に用いられる「原」は「もと」という意味を残しています。「原」という字の異体字に厂(がんだれ)の中に泉の字を三つ入れた字があります。崖の至る所から水が湧き出していることがよく表されています。

さて、今日話題にした「泉」という字(パーツ)が入った漢字で思い浮かぶ漢字はありますか。

線・篆文

線/篆文2200年前

一つは、小学校2年生で学ぶ「直線」という時の「」です。「いとへん」に「泉」と書きます。「いとへん」があるように、もともと布を縫い合わせるときの細い糸を表していました。崖や岩の割れ目から流れ出る細い水の様子を「糸」の細い筋に見立てて用いられるようになったのかもしれません。

 

腺

腺/隷書 国字

二つ目は、中学で学ぶ漢字です。「肉づき=月」と「泉」との組み合わせ、「」です。「涙腺」とか「リンパ腺」とかに用いる「腺」です。「腺」の「液を分泌する器官」という意味は、「泉」の「水が湧き出るところ」という意味を受け継いだ用い方です。江戸時代後期の日本の蘭学者が作った「国字」ですが、今は中国でも逆輸入されて使われています。

泉と原・源が同じ意味を持っていた字だということをご存知でしたか。確かに言われてみると何か似た字に見えてくるのが不思議です。

放送日:2018年5月14日