幼い時、小指同士を絡めて、「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~ます、指切った!」って約束し合った経験はありませんか。漢字の中に「嘘をついたら針千本飲ます」と同じような意味を表すことばがあります。それが「言語」・「発言」などという時の「言」、「いう」という字です。
言/甲骨3300年前 |
言/金文3000年前 |
今の字は横線四本と口ですが、古い文字を見ると「(辛)」と「 (さい、口)」との組み合わせです。「(辛)」は入れ墨用に使う針。「 (さい)」は神様への願い事の文を入れた器。「言」は、 の上に辛(針)をおいて、もし願い事の言葉に嘘偽りがあったら、自ら入れ墨の罰を受けますと神様に誓いを立てて祈ることばを言います。自分が口に出した言葉は、最後まで守らなければならないのです。
もし欺くことがあったなら入れ墨の刑で自らを罰します。そうした思いを神様の前で誓うことばが、「言」のもともとの意味でした。神に誓うということはそれだけの覚悟が必要でした。(発言することにこれだけの重みがあることを教えてやりたいものです。今の政治家や官僚に。)現在は、神様に誓いをたてて祈る覚悟を表す意味は薄れ、「いう、ことば」の意味で広く使われるようになりました。
ということで、「言」の成り立ちは、どこか「指切りげんまん」の約束事を交わすことと似ていませんか。針を飲ませることと針で入れ墨をすることとの違いはありますが、日本の子供の遊びの中に、はるか昔の中国での漢字の誕生の秘密が残されているようで、興味深いです。
さて、約束を破ったら私が罰を受けますとまで強く誓いを立てて祈る「言」に対して、神様はどんな反応をされるのでしょうか、そのことを表す字があります。
音/金文3000年前 |
意/篆文2200年前 |
以前取り上げたことがありますが、神様は言葉を話されないので、あるもので神様の思い=意向を伝えられます。それが「音」、「おと」です。真夜中にかすかな音で神様は神意をお伝えになります。その「音」の古代文字と「言」の古代文字とを比較すると、ほぼ同じ形だということがわかります。違うのは、上側に「一」があることと、(さい)=口の中に「一」が書かれていることです。「一」があることで神様の意向が (さい)の中に確かにあることを示します。
その神様の思いを読みとく(推測する)ことを「音」の下に「心」と書いて、「意味」を読み取るの「意」という字になります。その「意」にさらに「忄(りっしんべん)」の心を付け加えると「記憶」の「憶」、心に刻むように覚えるという字になります。
「言」の字と「音」の字は、今では関係のない別々の漢字のように見えますが、古い時代の漢字を比較すると、ほぼ同じ字形を持つ一対の漢字だということがわかります。誓いを立てる言葉「言」とその誓いに対する神様の反応を表す「音」、今ではわからなくなってしまった漢字のつながりを古代文字が教えてくれる一つの例です。
最後に、「言」がパーツとして入っている字の中で、「言」の成り立ちの意味をはっきりと引き継いで使われている字を二つ紹介します。
誓/金文3000年前 |
誓/篆文2200年前 |
一つは、今日何回も言ってきましたが、「誓う」という時の「誓」です。「折る」という時の「折」と「言」との組み合わせです。「折」は神様にお願いごとをする時の祈りの所作を表します。祈りの所作として草木(の枝)を折ることが行われました。神様に「ちかい」を立てるために、草木(の枝)を折り、願い事を (さい)に入れて祈ること、それが「誓」という字の成り立ちです。
罰/金文3000年前 |
罰/篆文2200年前 |
もう一つ、この字も既に出てきましたが、「罰」という字です。「言」に自分の誓いを裏切ったら「入れ墨の刑」の罰を受けますという意味がありました。「罰」の字は上側に「目」を横にしたような「罒(あみがしら)」があります。その下に「言」と「刂(りっとう)」があります。神に誓いを立てることばである「言」に「網」をかぶせて、その誓いを無効にし、さらに「刂」=刀を加えて神への誓いを壊す(破棄する)ことを示します。そこから、「罰」は神を裏切ることへの「とがめ、こらしめ」の意味を表す言葉になりました。
「言」からつながる漢字はもう少し広がります。次回に続けたいと思います。
放送日:2018年6月11日
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