十一月に入り、京都の街も徐々に色づき始めました。でも、なんだかあったか~い日中です。きれいな紅葉になるかといささか心配です。東京はどうでしょうか。さて、「あたたかい」という字には「温」と「暖」があります。どちらも「熱量が多い」時に用いますが、使い分けはできますか。
![]() 温/篆文2200年前 |
![]() 暖/篆文2200年前 |
「温」は「氵」と「(おん)」との組み合わせです。右側(旁)の「
」は「皿」の上に「日」がある形で、古い文字を見ると「皿」は煮炊きをする時に用いる盤のような器(フライパン?)。その器の中で、「物があたためられて熱気が満ちている形で、器の中のものが熱気で動いていることを示す」と白川先生は言われています。「
」の「日」の部分は、水が沸騰して湯気がいっぱいでている様子です。確かに「温」の左側(部首)は液体を表す「氵」になっています。ですから、「温かい水、温かいお風呂」のように液体を表す時に用いられます。今は、液体だけでなく「温かい食事」・「温かい料理」など固体のものにも用います。触ることができる「熱量の多い」ものには「温」を用います。ただ例外として、「温かな心の持ち主」・「温かな声援」など液体や固体ではありませんが、人柄(温和・温厚)や雰囲気を表す時にも用います。
「暖」はどうでしょうか。「暖」は古くは「・
(だん)」と書きました。「
」に、火にかけてものを温めるという意があり、その意味を受けて「
・
」は「あたたかい」の意味を表しました。古くはおそらく「温」と同じように使われていたかもしれません。のち、日へんをつけて今の「暖」の字が作られました。
「暖」は部首が「日へん」なので、日差しや空気など直接触って感じることができない「あたたかさ」を表します。「暖かい日差し」「暖かな気候」「室内を暖める」など。ただこちらも例外が。「暖かいセーター」とか「暖かな布団」など衣服や寝具など触れることができるものですが「暖」を用います。(使い方例は『漢字の使い分けときあかし辞典』円満字二郎著 研究社発行を参考にしました。)
例外がありますので、用い方は微妙なところがありますが、大雑把に、「温」は触れることができる液体や固体などの「あたたかさ」。例外は人柄や雰囲気。「暖」は直接触れることができない日差しや空気などの「あたたかさ」を表す時に用います。例外は衣服や寝具。ただ、円満字さんの辞典では、もっと簡単な使い分けとして「冷たい」の反対は「温」を用い、「寒い」の反対は「暖」を用いると区別しておけば、「だいたいにおいては、・・・間違いはない」とのことです。
![]() 冷/篆文2200年前 |
![]() 寒/篆文2200年前 |
ところで、「温」の反対の「冷たい」の「冷」、「暖」の反対の「寒い」の「寒」の字の中には共通のあるものが入っています。それは何でしょうか。
古い文字を見るとはっきりしますが、山形(・
)に描かれた「氷」です。「冷」では部首の「にすい」がそれ。「寒」では下側の「てんてん」が表しています。
「冷」の右側の「令」は音を表すためにのみ用いられていますが、「寒」の成り立ちは面白いです。「寒」は「うかんむり」があることから「家の中」を表しています。古代文字にも屋根の形()が描かれています。その家の中に草(
干し草・藁)が敷き詰めてあります。その草の中に人(
)が潜り込んでいます。その下に氷(
)がある様子からできた字です。暖房器具がなかった時代、家の中の干し草の中に潜り込んで暖を取ろうとしても地面の下から冷気が押し寄せてきます。干し草の中に潜り込んだ人は思わず「さむ~」といったかもしれません。その家の中の様子が「寒」という字になりました。長い時間がたったので、漢字は直線化してしまい、家の中にある干し草はわからなくなってしまいましたが、今も交差した直線として残っています。今私たちが用いている「
(草かんむり)」を2段に重ねてつなぎ合わせれば「寒」の直線化した交差部分になります。
放送日:2018年11月12日
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