節分

先週の日曜日(2月3日)は節分でした。京都のあちこちの神社で邪気を払う節分祭が行われました。私も嵐山の近くにある『松尾大社』に出かけました。

迫力ある鬼たちが拝殿で舞ったあと、神主が豆をまいて追い払います。そのあと、弓の弦をはじいて邪気を追い払う「鳴弦(めいげん)」という儀式が行われ、最後に拝殿の四隅から四方の空に向けて矢を射て、鳴弦と同じように四方の邪気を払う儀式が行われます。これら一連の儀式が終わると恒例の豆まきが行われます。拝殿を取り囲む人々が福を得ようと殺到するので毎年大変な混雑となります。私もやっとのことで福豆をいくつかゲットしてきました。

さて、弓の弦を鳴らす「鳴弦」や四方に矢を射て邪気を払う儀式は、すでに三千年以上前の古代中国でも行われていました。その儀式が日本の節分祭の中に今も残っているのが驚きです。

弦/篆文2200年前

その弓の弦は、古くは「天蚕(てぐす)糸(昆虫のテグスガの繭から取りだした糸)」で作られたものでした。()り合わせてしなやかで強い糸に仕上げたものです。「弦」という字は「弓」+「玄」。「玄」は糸をねじった形で、白色の糸束を染めて黒糸にしたものをいいます。古く、弓の弦は黒い糸をしていたのかもしれません。その弦を弾いて鳴らす「鳴弦」は、ずしりと重い低い音で、さざ波が立つように邪気を払いながら四方に響いていったのではないかと思います。

蚕・甲骨

蚕/甲骨3300年前

繭・篆文

繭/篆文2200年前

(かいこ)」を飼って繭を作り、糸をつむぐ仕事=養蚕もはるか昔から行われていました。3300年前の「蚕」の甲骨文字(左上)の中には「かいこの繭」の姿をそのままを写した字があります。「」という字も、「くさかんむり」と「桑の葉」が敷かれた囲みのようなところに「糸をはく虫」が入っている字で、とても成り立ちがわかりやすい字です。

蚕の繭から取り出された絹糸は、衣服を織るために用いられましたが、一部は「天蚕糸」のように撚り合わせて弓の弦などに用いられました。日本では弓の弦だけでなく、琴の弦や三味線、琵琶にも「絹糸」は用いられました。

強・篆文

強/篆文2200年前

弱・篆文

弱/篆文2200年前

その弓の弦に用いられた糸から生まれた字があります。「」と「」です。強は文字通り「強い糸」からできた「強い弓」を表します。実践用の弓に使われた弦は「しなやかでつよい」糸で出来ていました。強いという字の中にある「虫」は、「天蚕(テグスガ)」を表しています。弓の弦が普通の糸より強い糸で出来ていることを示します。

それに対して「弱」は飾りをつけた儀式用の弓のことでした。実践用ではないので「弱い弓」でした。「弱」の中の「点点(弱・パーツ)」は弓につけられた飾りを表しています。

弓・甲骨

弓/甲骨3300年前

引・篆文

引/篆文2200年前

弓にまつわる字の中には、弦が入っている字は他にもあります。そもそも、「弓」という字自体が「弦を張った弓の形」からできた字です。古い文字にはちゃんと弦が張ってあります。それから「引く」という字の「」の右の棒(丨こん)も弦です。今では様々なものを「引く」という時に使いますが、もともとは弓を「引く」ことから生まれた字です。

 

今回は節分の話から弓の弦にまつわる話へと移りました。弓矢による儀式は、人を殺傷する武器である弓矢が同時に邪悪なものを追い払う強い魔除けの力を持っていると信じられていた古代中国の人々の信仰を垣間見させてくれます。それが現代の日本の行事の中に古い形のまま残っていることに驚きです。中国と日本との本当に長いつながりを感じさせてくれる一コマです。

放送日:2019年2月11日