今週も新型コロナウィルスの様々な影響が拡がり続けています。どこまで続くのか、いやな空気が流れています。人々を取り巻く脅威に目と心を奪われている間にも、自然の歩みはゆっくり前に進んでいます。
今週は、二十四節気の『雨水』にあたります。雪が雨に変わり、氷が解けて水になる春の始まりを告げる時期を言います。昔から、暦の上では、農耕の準備を始める目安とされていました。
古代中国の人々にとっても、新しい稔りに向けての準備を始める大切な時期でした。その準備にまつわる漢字が生まれました。
![]() 始/金文3000年前 |
![]() 始/篆文2200年前 |
準備はまず、冬の間に小屋に寝かせていた耜などの農具を取り出して、清めの儀式をすることから始まります。当時、農具は清めて使用しないと、秋に虫を発生させ、農作物が食べられてしまうと考えられていたからです。
その儀式の名前を「始まり」の「始」といいました。「女」と耜の形の「 (ム)」(水をくむ柄杓のようにも見えます)と願い事を入れた器=口(
さい)との組み合わせです。願い事を入れた器=
を供えて神に祈り、耜を祓い清める儀式を行いました。その儀式を「女の人」が執り行ったので「女へん」になりました。女性が新しい命を宿し、産む「出産」と命の糧の穀物を生み出すこととはつながっていると考えられていたからでした。
![]() 加/古文 約2500年前 |
春の最初に行う儀式、それが「始」でした。それとほぼ同じ発想から生まれた字に、願い事を入れた器= (さい)と力(フォークのような鋤の形)を供えて神の御加護を祈った「加」があります。神にご加護を祈れば、鋤は力をアップし、悪いものを寄せつけないと信じたのです。
![]() 静/金文3000年前 |
![]() 静/篆文2200年前 |
さて、その時供えた耜や鋤には虫を寄せつけない「青丹」という鉱物から作る青色の顔料(絵の具)を塗りました。それを表す字が、「しずか」という時の「静」です。「青へん」と争うの「争」との組み合わせです。「争」はこの場合は耜(鋤)を爪と手で持つ形からなっています。こうして虫を寄せつけない準備をちゃんとしておけば、心落ち着けて秋を迎えることができるので、「静」は「やすらか、しずか」の意味を持つようになったのです。
![]() 勞・労/篆文2200年前 |
農具=力(鋤の形)を祓い清める方法は青い絵の具だけではなく、「火」を使う方法もありました。それが、「労働」の「労」です。「労」の旧字体は「勞」。火が二つあり、その下に力(鋤)があります。火で鋤を清め、神に農作業の無事を祈りました。「労」の字の中にも、実り多い収穫の時期が迎えられますようにという願いが込められています。
![]() 桃/篆文2200年前 |
「雨水」の時期(2月19日前後から約2週間)が終わると、虫がはい出る季節「啓蟄」(3月6日前後から約2週間)を迎えます。いよいよ春の訪れを肌で感じることができる季節です。どうか、その時期までには、今起こっている一連の災いが収束に向かっていますように。今回も最後は、「魔除け」の一字で終わります。
3月3日は雛祭り。雛飾りとともに「桃」の花が飾られます。桃は昔から「魔除け」の木とされてきました。桃の枝で大地をたたいて魔をよける行事が今でもあります。古代中国では、枝を地面にさして「魔をよける」ことも行われていました。「兆」は占いを行った左右対称の亀の甲羅のひびの形からできた字です。左右にひび割れた甲羅の形で未来を占うことから「兆」は「きざし」を表す力があると考えられました。
雛祭りに「桃の花」を飾るのは、ちょうどこの季節に咲く花ということもありますが、女の子の無事を祈る「魔除け」の意味もあるのです。ぜひ、今年は雛祭りに桃の花を飾ってみてください。
放送日:2020年2月24日
コメントを残す