皐・篆文

5月に入りました。前回予告したように今回は、旧暦の五月を指す「皐月(さつき)」という字の話をします。

皐・篆文

皐・皋/篆文2200年前

白・甲骨

白/甲骨3300年前

*「皐」のもとの字は「皋」です。古代文字は「皋」の字形です。

「さつき」の「さ」に当たる漢字「(こう)」は、「白」という字の下に漢数字の十、その十の上側の左右のスペースに横棒を2本ずつ書く字です。その字に「月」を合わせて「皐月(こうげつ)」と書きます。「皐」という字はなじみがないかもしれませんが、人名漢字として使える現役の字です。

その「皐」は、「白」というパーツがあるように「白い」という意味があります。白川先生は「白骨化した獣の形」からできた字だとおっしゃっていますが、白川先生の「白」という字も頭の骨=しゃれこうべの形からできた字です。漢字が生まれたころには、白い骨が「白色」を代表するものと考えられていました。

さて、そんな「白色」を表わす漢字がどうして「さつき」の「さ」に使われたのでしょうか。(白川先生はその理由まではおっしゃっていませんが・・・。)

この「皐」は、「白い」という意味の他に「水沢」の(さわ)」という意味でも用いられています。「沢」は、古くは、葦が生えているような湿地帯=沼地、または谷川のような山間の水が流れている所を表わす字でした。水の動きがあるかないかの違いはありますが、ともに、水面がキラキラと白光りするところです。そこから、「皐」は白光りする輝きを表わす意味にも使われるようになりました。

その「光の輝き」を表わす「皐」の字を5月の月の名前に使ったのです。春が終わり、初夏となり、生き物が華やぐ5月の季節にぴったりの「光り輝く」字を選んだということではないでしょうか。

こう

(こう)

こう・篆書

こう 篆文/2200年前

「骨の白」を表わす「皐」という字の成り立ちからは、だいぶ離れた使われ方をするようになりました。色彩を表わす白から次第に光を表わす「白」=明るさや清らかさにウエイトを置いた使われ方へと変化していったようです。たしかに、「皐」という字に「お日様」をつけた「 こう(こう)」という字があります。「光り輝くさま」を表わす字です。

ですから、「青葉が茂りむせかえるような命の輝きが始まる季節」の到来を告げるのにはぴったりの月の名前になったように思います。

そういえば、旧暦5月の「さつき」は「早苗(さなえ)(づき)」とか「稲を植える月」とも言われています。日本語の「さつき」の「さ」には、「神にささげる稲」=「神稲(かみいね)」の意味があると岩波古語辞典に書かれています。そう考えると「早苗月」は、「神にささげる苗を植える月」ということになります。「五月雨」と書く「みだれ」も「稲を成長させる雨」ということなのかもしれません。

確かに、稲の苗を植える用意ができた水田に陽が射すと水面は白く輝きます。日本語の「さ」のイメージから広げると、水田が光り輝く姿、それが、「皐」ということなのかもしれません。

そう考えると、文字通り「皐月」は、田植えの季節の到来を告げる月と言えそうです。

放送日:2021年5月10日