雨・甲骨

桜の花が散り、新緑の美しい季節になりました。日本の暦には1年を24等分し、それぞれの時期に季節の名前をつけた「二十四節気」があります。2月4日「立春」から始まって翌年1月20日「大寒」に終わる二十四の季節を表す名前の六番目が、今回取り上げる「穀雨」です。今年は、4月20日から5月4日までの2週間です。次が5月5日から始まる「立夏」ですから、暦の上で夏になる直前の時期に当たります。

「穀雨」は、穀物の種をまく時期に降る雨、穀物にとっての恵みの雨のことを言います。この時期に降る雨のことを「百穀春雨」という言い方があるそうです。この言葉から「穀雨」という言葉が生まれたともいわれています。たくさんの穀物を潤す春の雨、いかにも新芽や若葉を包み込んで降る優しい雨という感じがします。

百・篆文

百/篆文

穀・篆文

穀/篆文

春・甲骨

春/金文

雨・甲骨

雨/甲骨

その「穀雨」の「」の成り立ちです。「穀」の左側の「穀・パーツ」は、(もみ)の中に()(米などの実)が入っていることを表します。右側の「(しゅ)(るまた)」は、ものを叩くことを表す字です。実の入った籾を棒などでたたいて()(実)を取り出すこと(脱穀すること)を「穀」と言いました。脱穀した後の空っぽになった籾が「(から)」です。

ということで、米、麦、粟、(ひえ)(きび)、豆などの様々な穀物の総称を「百穀」と言いました。種をまき、苗を植えて、百穀の実りのための下準備を終えるちょうどその時期に降る春の雨を「百穀春雨」と言いました。

季節を細かく分けて、その季節の移り変わりを味わう文化は、日本ならではと思いますが、今回の「穀雨」(百穀春雨)のように春に降る雨の呼び方にもいろいろあります。

催・篆文

催/篆文

花・篆文

花/篆文

雨・甲骨

雨/甲骨

一つ目は「(さい)花雨(かう)」です。花を催す雨。「催」は「イ(にんべん)に「(さい)」。「崔」は、もともとは山の高く険しい様子を表す字でしたが、そこから何か人に強く迫るといった意味を持つようになり、「もよおす、せきたてる、かきたてる」等の意味で用いられるようになりました。そう考えると「(さい)花雨(かう)」の「雨」は花をかきたてるように一斉に咲かせる強い力が秘められているように感じてきます。4月下旬の今は、ツツジ、山吹、藤、牡丹等など次々に花が咲き始める季節です。

甘・篆文

甘/篆文

雨・甲骨

雨/甲骨

次に「甘い雨」と書いて「(かん)()」。草木を潤す恵みの雨です。「甘」は「あまい」の意味があるので、やわらかい、優しいイメージになります。「甘」は、もともとは錠をして鍵をかけた形を表した字で「かぎ」の意味でしたが、根に甘みのある甘草(かんぞう)という草のおかげで「あまい」の意味を持つようになった字です。

春・甲骨

春/金文

霖・甲骨

(りん)/甲骨

最後に、よく聞かれる名前だと思いますが「菜種梅雨」。まだ梅雨でもないのに、ちょうど菜の花が咲くころに降る長雨を言います。同じ春の長雨を別の言い方で「春霖(しゅんりん)」ともいいます。「霖」は「雨かんむり」に「林」。いつまでも林が続くようにしとしとふりつづける春の雨。この「霖」を使うとイメージが広がるような気がします。

今日は春をこえて夏のような陽気ですが、これから一雨ごとに降る雨の先に八十八夜、大型連休が待っています。茶摘みの季節を迎えると夏の始まり「立夏」です。

放送日:2022年4月25日