岡・篆文

コロナの感染拡大とちょうど重なってしまいましたが、2020年4月から学校教育の指針となる「学習指導要領」が小・中・高と順次改訂されてきました。10年ぶりに行なわれた今回の改訂では、例えば、小学校では5年生から「外国語(英語)」が正課となり、プログラミング教育が必修化されました。高校では新しく「論理国語」とか「公共」と言った新科目が登場しています。また、iPadが一人1台配布されるなど教育方法の変更にもつながる大きな改革が始まっています。

その改訂の中で、小学校で習う漢字についても変更がありました。これまで「教育漢字」として覚えなければならなかった漢字は1006字でしたが、今回20字増えて1026字となりました。(1年80字、2年160字、3年200字、4年202字、5年193字、6年191字)

今回増えた20字はすべて「府県名」の漢字で、4年生に配当されました。その結果、従来4年生で習っていた漢字を5年、6年生に移動させ、4年生で習う漢字の総数を従来と大きく変えないようにする措置が取られています。

では、なぜ4年生で府県名の漢字が増えたのでしょうか。それは、4年生の「社会科」の授業で全国の「都道府県」の名前や場所などを学習するからです。これまでの学習では習っていない一部の府県名の漢字は使えないという不便さがありました。ですから、4年生で都道府県のことを学ぶ際に「都道府県名」をすべて漢字で書けるようにさせておきたいというのが主な理由です。

では、どんな字かというと、沖縄の「」と「」「福岡・岡山・静岡」の「」、鹿児島の「鹿」、長崎の「」、熊本の「」、佐賀の「」、愛媛の「」、香川の「」、奈良の「」、「大阪」の「」、滋賀の「」、岐阜の「」と「」、福井の「」、山梨の「」、茨城の「」、埼玉の「」、栃木の「」、新潟の「」です。

いかがですか。お聞きの皆さんのお住まいの県は該当していましたか。小さい時から使い慣れているので、小学校で習わない漢字だなんて知らなかったという方もおられるかもしれません。また、「岡や岐や香や井や阪」など意外に簡単そうな漢字も習っていなかったのだなとか、逆に「媛や潟や滋や栃、熊、縄」などかなり画数の多い難しそうな漢字もあるなと思われたかもしれません。

確かに、地元でない限り、なかなかお目にかからない漢字も多く、覚えるとなると、4年生の子どもたちには負担が増すことになります。もともと、これら20字の漢字は中学校に入ってから習う漢字だったので、4年生だと少しハードルが高いかもしれません。それでも、4年生で覚えさせたほうが良いという判断になったのです。

そんな中から、今日は、岸田君の出身地の「岡山」の「」と私の出身地「岐阜」の「」と「」を取り上げてみます。

岡・篆文

岡/篆文2200年前

山・篆文

山/篆文2200年前

」の古代文字は「網」の形の「网(モウ)」と「山」との組み合わせです。「网」は音、小さく書かれた「山」が意味を表しています。「小高い山」=「丘、丘陵地帯」を指します。ですから、「岡山」とは、文字通り「小高い丘のような山」を表す字です。

ということで、岡山にはそういう山が多いことから名づけられた地名かと想像しがちですが、実は、「岡山」という地名の由来は、「岡山城」の築城と関係があるそうです。1590年、当時領主だった宇喜多秀家が、城を建てようとして選んだ場所が、土地が小高くなった現在地だったので、この場所の地名「岡山」を取って「岡山城」と名付けたんだそうです。城が建てられた場所が「岡山」という地名でなかったら、「岡山」は別の名前の県になっていたかもしれません。

ところで、九州「福岡」の地名も「岡山」と関係があるとご存じでしたか。1600年筑前の国の領主となった黒田官兵衛の息子黒田長政は、黒田家の祖先の地、備前の国(岡山県)「福岡」の地名を完成したその城に名付けたとのことです。同じ岡山県の地名からとった「岡」がつく場所というのも浅からぬ縁ですが、もし、福岡を治める領主が黒田家でなければ、これまた「福岡」の県名もなかったと思うと歴史の「あや」を感じます。

岐・篆文

岐/篆文2200年前

阜・篆文

阜/甲骨3300年前

岐阜の「」は「山」と「支」との組み合わせです。「支」は手で木の枝を持つ形からできた字です。「枝」という字のもとの字です。木の枝が分かれているように「分かれる」の意味があります。山の中でどっちに行くか、その「道の分かれ目」を指します。

」は、古代文字を見ると「階段」の形をした字です。白川先生は「神が天にのぼり降りするときに使うはしごの形」だとおっしゃっています。後にこの字から部首「阝(こざとへん)」ができました。神が降りて来られる梯子のある場所は、大木や大きな岩のある神聖な場所でした。「岐阜」とはまさに「道を分ける神の加護を受けた神聖な場所」といえるかもしれません。かつて、織田信長が、斎藤道三の城だった美濃の稲葉城(岐阜城)を攻め、そこを足掛かりに天下統一に突き進みます。その最初の地を信長が「岐阜」と名付けたというのもうなずける話です。まさに、信長の「天下取り」の道はこの場所から始まったのです。

「都道府県」を表す地名は、歴史の背景があるので、興味深いです。また機会があれば、お話をしたいと思います。

放送日:2022年6月27日