寒・金文

暖かかった今年の冬も、1月半ばに入ってぐっと寒くなるとの予想が出ています。ようやく本来の季節に戻ったような気候になってきましたので、寒さにまつわる漢字を取り上げてみようと思います。そもそも「寒い」の「寒」。この字はどのような成り立ちでしょうか。

この字は漢字ができた頃の字形と比べるとずいぶん形が変化してしまったので、今の字を見ただけではなかなか成り立ちが分かりづらいのですが、古い文字を見ると古代の人々がどうしてこの字を「寒い」という意味を表わす字としたのか、わかってくるのです。

寒・金文(寒 金文3000年前) 寒・篆文(寒 篆文2200年前)

古代文字を見ると、寒いという字はもともと4つのパーツ(要素)からできています。外側に家の形があります。その家の中に人がいます。その人を取り囲むように「草」があります。一番下に、金文では凍った土の上に平たい敷物(篆文では氷そのものを表す形)があります。

「家」と「人」と「草」と「凍土の上の敷物」・・・連想ゲームのようですが、どういう様子を描いているのでしょうか。そもそも家の中にある「草」とは何でしょうか。

家の中にある草ですから外に生えている草とは違います。乾草を示します。おそらく「(わら)」です。家の中に藁を敷き詰め、その藁の中に入り込んで「さむさ」を防ごうとして横たわっている人の姿を表しています。

今のような暖房がなかった時代です。藁の中に入り込んで「暖」を取ろうとしたのです。でも、床は地面に薄い敷物を引いただけの粗末なものです。土が凍ってその冷たさがつきあげてきます。藁の中にもぐりこむ人。それでも寒さは防ぎきれなかったでしょう。その寒さをこらえている様子こそ「寒い」という字の成り立ちでした。寒い家の中の風景。だから現在の「寒」には、家の屋根を表す「うかんむり(うかんむり)」が残っているのです。

実は「草」も残っています。草は「朝」という字の成り立ちで説明したように、お日様を真ん中にして上と下に漢数字の「十」の形で示されます。「十」を横に二つ並べてそれをつなぐと「くさかんむり」になります。「くさかんむり」を二段重ねにしてつなぎ合わせると「寒い」の真ん中の縦横の直線部分(縦横の直線)になります。二段重ねにするのは人の周りを囲む藁草の多さを表します。

そして、凍った土=氷を表す「てん、てん(冬・てんてん)」を打って「寒い」という今の字になりました。(人はどこかに隠れてしまいましたが・・・)

寒いという字には敷き詰めた草(藁)の中にもぐりこんで寒さを必死にこらえようとする人々の様子がつまっています。そんなルーツを知ると「寒い」という字もけなげな字に思えてきます。

さて、「寒い」という字の「凍った土」を表す「てん、てん」は、後に「氷の塊」を表すようになり、他の字にも使われるようになります。2200年ほど前の「てん、てん」は「冬・てんてん(篆文) 」の形で表されています。

冬2(冬 篆文2200年前)

上の字は2200年ほど前の「」という字です。冬も物みな「凍る」季節ですから「氷」を表す「てん、てん」が入っています。(「冬」の成り立ちについてはこちらの記事も参考にしてください)

といっても、寒いという字も冬という字も古くは「てん、てん(冬・てんてん)」ではなく「冫(にすい)」で書かれていました。「寒・旧字」「冬・旧字」のように。

「冫(にすい)」は「氷の塊」を表すパーツとして使われるようになります。「冷凍」という時の「冷」にも「凍」にも「氷」を表す「にすい」が部首として使われています。

冷・篆文(冷 篆文2200年前) 凍・篆文(凍 篆文2200年前)
氷・金文(氷 金文3000年前) 氷・篆文(氷 篆文2200年前)

昔「氷」という字も古代文字を見るとわかるように「冰」と書かれていました。今は「氷」という字には「てん」が一つ。その一つが「氷の塊」を表しています。

今年は初氷も例年より遅かったようですが、「寒」「冬」「冷」「凍」、そして「氷」。形は違っても「氷の塊」を表すパーツが入っている冬の季節の漢字です。

放送日:2016年1月18日