ラジオ第58回「京」と「都」について

京・甲骨

京都は今年も美しい紅葉のシーズンがやってきました。そんな京都で先日、豊臣秀吉が作った「お土居(どい)」と呼ばれる京都の街をぐるりと囲んだ土塁どるい土塀どべい)の遺構が新たに見つかったことが新聞に載りました。横幅18メートル、高さ9メートルというこれまで考えられていたよりかなり大きなものだったことが報じられました。

古代中国では、人々の住む都市(町)は土の壁=土塀で囲まれた場所でした。その土塀で囲まれた武装した都市の全体を「城」といいました。
日本の「城」は、敵の攻撃から領主を守る建物全体のことを言いますが、中国では都市全体が「城」と呼ばれていました。その「都市=城」への出入り口に大きな「城門」が建てられていました。街への出入り口だけにその城門は、敵の侵入を見張るための「物見やぐら」を備えた大きな建物でした。その大きな城門の形から生まれた字が「京」という字でした。

城_金文

城/金文3000年前

街の南北に城門がある

京・甲骨

京/甲骨3300年前

「京」の古い文字はその門の姿を表した字です。入口には三本の柱があり、上に物見やぐらが乗っています。そのアーチ形の大きな城門は都市のシンボルであり、そのような城門を持つ都市は国の中心的都市なので「京」とかいて「みやこ」という意味にもなりました。

日本でも平安時代に京都の玄関だった大きな門を「羅城門」と呼んでいました。歴史が下って秀吉は京都の街を中国の都市のように「土塁(どるい)(土塀)」で囲まれた街にしようと全長20キロに及ぶ「お土居」を作ったのでした。お土居に囲まれた内側を「洛中」、外側を「洛外」といいました。

都市の内と外を隔てる大きな城門のある場所は重要な場所である同時に人々に災いをもたらす悪いものが入ってくる危険な場所でもありました。ですから、大きな城門=「京」では悪霊などが入り込まないよう「悪霊退散」の祈りが行われました。その祈りのことを表した字が「」という字です。

高・甲骨

高/甲骨3300年前

「高」という字の上側は「京」という字を省略した形です。下側には願い事を入れた器=「口(さい)」が置かれています。願い事を入れた器を城門に供え、悪霊などが入り込まないようにお祓いをすることを「高」といいました。その儀式が大きくて高い城門で行われたことから、「高」は「高い」という意味で使われるようになりました。今ではなかなか結び付きませんが、「京」と「高」は同じルーツを持つ字でした。
京都にも重要な入り口が七つありました(「京の七口」)。西の出入り口の「丹波口」東の出入り口の「粟田口」、北の出入り口の「鞍馬口」などは、今でも地名として残っています。

さて、京都は「京」という字だけで「みやこ」という意味があるのに、さらに「(みやこ)」という字が加えられています。そもそも「都」という字はどういう成り立ちを持つ字でしょうか。

都・金文

都/金文3000年前

中国の古代の都市は城壁で囲まれているといいました。その壁は両側にたてた板と板の間に土を入れて押し固めていく「版築(はんちく)」という方法で作られました。秀吉もその方法で土塁を作らせています。その「土塁(土塀)」の土の間から悪いものが入って来られては大変なので、土の中に、今でいえばお守りのお札のようなものを入れて「魔除け」にしました。そのことを表した字が「者」という字です。「者」は現在では「何者」というように「人」を表す字として使われることが多いので、想像がつかないかもしれませんが、よく見ると「土」という字が入っています。斜めの線は「お守り」を隠す「木の枝」です。その下に「日」という字があります。「日」はお守り札を入れた器=口(さい)を表しています。もともと、「者」はお土居(土塀)の中に入れたお守りの器のことを表していました。

ですから、「都」という字は、お守りの器が入れられたお土居(土塀)であることを表す「者」と「阝(おおざと)」=人々が住む街を表す字から作られた字です。周囲にめぐらされたお土居(土塀)に守られた街が「都」でした。

京都とは字の成り立ちから言えば「大きな城門=京」で行われる祈りの儀式(高)と悪霊を防ぐお守りの埋まった「お土居(土塀)」によって守られた街のこと。「京」も「都」も人々を守る祈りの力が込められている字でした。

放送日:2016年11月14日

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2 Comments

  1. 習志野権兵衛

    2016年12月13日 at 1:53 AM

    同じ日本ですが、沖縄では「城」と書いて『ぐすく』と読ませ、「聖域」を意味することもあるようです。
    元の「城」という字にも、こうした意味があるのでしょうか。

    • 510sensei

      2016年12月22日 at 1:05 AM

      習志野権兵衛様

      「城」という字の成り立ちは「武装した街」です。「城」に「戈(ほこ)」の字が入っていますので。「聖域」というより、武器で守られた場所というイメージだったと思います。「域」という字も「戈」で守られた場所を示す字です。

      しかし、次第に意味が派生し、「侵せない場所」=神聖な場所という意味が加わっていったのかも知れません。

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