城_金文

9月19日から9月23日まで、白川静記念東洋文字文化研究所(白川研)が主催する『漢字探検隊』の催しで、福島県喜多方市・会津若松市・福島市に行ってきました。

今年初めて訪れた会津若松市では、街のシンボル「鶴ヶ城」の再建五十周年のイベントに合わせ『城と漢字』というテーマで、地元のボランティアガイドの皆さんと一緒に鶴ヶ城を巡りながら漢字を学ぶ取り組みを行いました。

内堀を渡る「赤橋」の上では「橋」と「堀」の漢字の成り立ちを、「天守閣」を眺めて「城」や「天」の字の成り立ちを、「城門」前では「門」と「戸」の成り立ち、「物見やぐら」の前では「高」、「石垣」の上から市内を眺めて「囲む」の「囲」等などの字の成り立ちを、親子で参加した地元の皆さんにお話しました。

当日は絶好の天気に恵まれ、青い空に赤瓦の美しい「鶴ヶ城」がひときわ映えて、机の前で学ぶ漢字とは一味違う楽しいイベントになりました。

「白川研」では身の回りのものを通して漢字を楽しく学ぶこうした催しを全国各地で開催しています。酒蔵があれば「お酒と漢字」、動物園で「動物と漢字」、神社で「神さまと漢字」、食をテーマに「食べ物と漢字」、研究者とのコラボで「災害と漢字」、その他「漢字あそび大会」、「漢字ジェスチャー大会」等など、それぞれのリクエストに合わせて様々なテーマで取り組んでいます。

対象は小学生から大人まで。原則、小学校の部(午前)と中学生以上・大人の部(午後)の二部構成で行っています。開催日は、主に土曜日・日曜日です。今は、京都や滋賀を中心に取り組んでいますが、全国の皆さんの街からリクエストがあれば出かけていくことも可能です。

鶴ヶ城

(ここから後は、ラジオでは紹介できなかったお話しです)

では、会津若松での「城と漢字」をテーマにした「漢字探検隊」の一コマ。代表として「城」という字の成り立ちを紹介します。

城_金文(城・金文)  城_古文(城・古文)

といっても、「城」という字の成り立ちの説明は簡単ではありません。そもそも、「城」は中国と日本では意味するところが違っているからです。日本では「殿さま」がいる場所ですが、中国では「都市」を表しています。城壁に囲まれた都市、それを「城」といいました。古代文字の「城」はそれをよく表しています。

今の字は左側が「土へん」ですが、三千年前の字では「 城_やぐら」と書き、街の北と南に高い建物が立っている形です。都市の北と南の出入り口に物見やぐらのような高い建物があったからです。

「城」の右側は「成」です。「成」は「飾りをつけた(ほこ)=槍のように長い武器」を表します。(ちなみに、戦争の「戦」の右側のパーツが「戈=ほこ」です。左側はたてです)

ですから、「城」は「城壁で囲まれた武装する街」を表す字でした。日本の城も「武器で守られた所」です。規模は違いますが、武器で守られている点は、中国も日本も共通です。

武器で守られた場所は「城」だけではありません。

地域の「域」にも、「ほこ」があります。古くは武器で守られた場所を表す字でした。

域・金文(域・甲骨)  域_篆文(域・篆文)

さらに、「域」の=旁、(つくり)(ある)いは」という時の「(わく)」が入った字があります。

国_金文(国・金文)

ハンコのようなこの字に、たしかに「或」があります。「国」という字の旧字体「國」です。國も武装した場所でした。

三千年以上前から、城=都市も、地域も、國も、すべて「武器で守られている場所」でした。

その時間の長さを考えると人間は「武器」を永遠に捨てられないのかと思うのですが、日本では、七十年前の大きな戦争の後、「くにがまえ」の中に武器が入っていた旧字体の「國」という字を「くにがまえ」の中に「玉」を入れた「国」の字に変えました。「国」を武器で守ろうとする国づくりは永久に放棄するという願いが、この字の改訂にこめられている・・・と想像するのは考えすぎでしょうか。

注:旧字体の「國」は人名漢字には残っています。人の姓名に今も使うことができます。

ということで、今回は「漢字探検隊」の紹介と「城」にまつわるお話でした。

放送日:2015年9月28日

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