抽・篆文 斗・篆文
(抽斗/篆文2200年前)

今回はラジオのテーマ「引き出し」に便乗します。「引き出し」は「抽斗」とも書きます。この字は難読の字として取り上げられることも多いですが、「ひきだし」と読みます。音で読めば「ちゅうと」。「」は「瓢箪(ひょうたん)」の形の「由」と「手へん」とを組み合わせた字で、瓢箪の中から「タネ」を手で取り出すことを表します(第2回ラジオで取りあげました)。ですから、ものを「とりだす、ひきだす」の意味を持つ字です。

斗・金文

斗/金文3000年前

斗・篆文

斗/篆文2200年前

では、何を引き出すのか、それが「」の部分で表されています。「斗」はもともと、物をすくのついた「柄杓ひしゃく」の形から生まれた字です。後に、柄杓の意味から物を入れる器=「ます」の意味でも用いられるようになり、枡形の箱を表すようになりました。「抽斗」とは、文字通り「枡形の箱を引き出すこと」を表す字です。

今回はその「斗」にまつわる字を取りあげます。

「斗」が柄杓の形からできた字ということから、北の夜空に輝く「柄杓型」の七つ星を「北斗七星」と呼びます。「斗」の古代文字(金文)は北斗七星の星座の形にそっくりです。

料・金文

料/金文3000年前

料・篆文

料/篆文2200年前

「斗」は「柄杓ひしゃく」・「ます」の形であることから物の量を「はかる」という意味を持つようになります。「斗」でお米の量をはかることを表す字が「米へん」に「斗」と書く「」です。のち、米だけでなく、広く「はかる、くらべる」の意味で用いられようになります。例えば、「料金」などと使う時は、そこまでの手間をお金で「はかる」ことを表します。さらに「材料」のように物を作るときの「もと、たね」として用いたり、「食料」のように「かて」の意味で用いるようにもなりました。「料理」という言葉は、もともと前後の事情をはかり、うまく処理することを表す言葉でした。材料に手を加えて調理することの意味で使われるのは後の用法です。今でも、“野球のピッチャーが四番バッターをうまく料理した”などという言い方の中に残っています。

科・篆文

科/篆文2200年前

次は、「学科」の「」です。部首の「(のぎへん)」は穀物類を、「斗」は容量をはかる器の意味で、「料」と同じように「科」も(ます)などの器で穀物の量をはかることを表す字です。農作物の量をはかり、その質を品定めするので「科」は等級を定めることや分類、区分などの意味に用います。中国の官吏登用試験の「科挙(かきょ)」、その試験の種類から「科目」等の言葉も生まれました。学校での学習の区分も教科とか学科などといいます。

斜・篆文

斜/篆文2200年前

最後に、もう一字。「斜面」の「」があります。「余」と柄杓の形の「斗」との組み合わせです。古い字書に「()むなり」とあって、柄のついた柄杓を使って水を汲むことを表す字だと考えられています。水を汲むとき柄のついた柄杓を傾けて汲むので、「ななめ、かたむく」の意味となりました。(「余」の部分はこの場合「音」を表す役割です。) 柄杓を斜めに傾けて水を汲んだから「斜」、この字が柄杓の役割を一番表している字です。

「引き出し」を表す「抽斗」の「斗」は、柄のついた柄杓の形からできた字。 その柄を傾けて水を汲むと「斜」という字が生まれ、物を入れる器の形から穀物を「はかる」ことを表すようになり、「料」や「科」という字が生まれました。 調べてみると意外な「引き出し」を持つ字でした。

(補足)
「斗」は容量を示す単位として使われています。日本では一斗は十升のこと。一升瓶10本分の量です。当時の柄杓が「一斗缶(18ℓ)」のような大きさとは思えませんので、漢字が生まれた時代には今よりも少ない量を表す単位だったと思われます。一説によると一斗が今の一升(1.8ℓ)より少し多めの約2ℓ程度だったと言われています。それでも、大きめの杓に違いありませんが・・・。

放送日:2017年2月13日