「ことば」は地域によって表現方法(方言)、アクセント、イントネーション等の違いがありますが、「漢字」は全国一律どこでも同じように使われていると思っていませんか?
実はそうではありません。漢字にだって地域による差があるのです。

そんな地域性を持つ文字を「方言漢字」と命名し、全国から収集して紹介している漢字の専門家がいます。早稲田大学の「笹原宏之」先生です。四年前、角川選書から『方言漢字』というタイトルで本を出されました。
今日は、笹原先生の本に取りあげられている地域による漢字の違いについていくつか紹介したいと思います。

一つ目は、「特定の地域でしか使われない漢字がある」ということです。多くは地名に使われています。例えば、京都市山科区に「きへん」に「知」と書いて「(なぎ)辻」と読む地名があります。地下鉄東西線の駅名にもなっている「なぎつじ」は地元の人にしか読めない地名です。京都には他にも「先」と「斗」と「町」で「ぽんとちょう」と読む有名な場所があります。初めて見る人はまず読めないですね。京都の南に「一口」と書いて「いもあらい」という地名があります。苗字としても使われていますが、これなどはまず読める人はいません。
(例:「木へん」に「入」→「杁(いり)」(名古屋)、埼玉の「埼」、札幌の「幌」など)

二つ目は、「地域によって書く字が違う」という例です。例えば、京都の名産品に「湯葉(ゆば)」があります。「湯」と葉っぱの「葉」と書いて「湯葉」ですが、栃木の日光当たりでは「湯」に「波」と書いて「湯波」と書くそうです。

饅頭(まんじゅう)」も熊本を中心に「万」と「十」と書いて「かるかん万十」、石川県の饅頭屋さんは「万」に「頭」の「万頭」という文字で書くことが多いようです。

「すし」という字も地域によって違うのだそうです。主に「鮨」・「鮓」・「寿司」・「寿し」と書くようですが、この書き方にも地域性があるようです。最近は全国的に「寿司」と二字で書くお店が優勢のようですが、それでも東京銀座を中心に関東以北では「魚へん」にカタカナの「ヒ」と「日」を書く一字の「鮨」が店名に根強く残っているのに対して大阪などでは「鮓」(魚へんに「酢」の右側)と書く店がまだまだあるようです。四国の高知ではほぼ「寿司」か「寿し」と書くのが大勢を占めるようです。皆さんの住まいの地域ではどのような表記の「すし屋」さんが多いですか。

その他、「豆腐」と「豆富」(島根県は豆腐と豆富がほぼ同数あるいは「豆腐」を凌駕している)、「天麩羅」・「天婦羅」・「天ぷら」、「月極め駐車場」「月決め駐車場」等など。

さらに、「玉子焼き」と「卵焼き」と書くかなどもよく話題になります。地域性があるかどうか、年代によっても違うかもしれませんが・・・皆さんはいかがでしょうか?(NHKでは「卵」で統一)

さて、三つめは「漢字の読み方にも地域性が表れている」ということです。例えば、東京の「渋谷」・「世田谷」などの「や」とよむ「谷」、関東では「や」と読む傾向が強いとのこと。しかし、関西では「たに」と読む傾向が強く「渋谷」も「しぶたに」と読まれることが多いです。大阪の環状線の「桃谷駅」は「ももだにえき」と言います。 私の名前に使われている後藤の「藤」も「とう」と読む傾向は関東に多いようです。関西以西では「藤」は「ふじ」と読む傾向が強く、「藤原」「藤田」「藤村」などの苗字に使われています。その使われ方の境目は中部地方で、中部地方では「とう」と「ふじ」が混在しているとのこと。

沖縄などではもっと独自の読み方をする場合が多く、例えば「西表島」と書いて「いりおもてじま」と読んだり、「東江」と書いて「あがりえ」と読むなど思わず納得するような「読み方」になっている例もあります。

まだまだ種は尽きませんが、こうした「漢字」についての地域差は現代では徐々にあいまいになってきているかもしれません。でも、地域独自の文化とつながった地域産の漢字や「読み方」があるということを知っておくだけでも、いろいろな地域に旅行に出かけたときの楽しみが増えるかもしれません。「すし店」の名前の付け方にも、「たまごやき」の書き方にも「つきぎめ駐車場」の表記の仕方にも地域の特色が表れているからです。是非探ってみてほしいと思います。

もっと知りたい方は、早稲田の笹原先生の著書『方言漢字』(角川選書)をお読みください。

放送日:2017年3月13日