京都は祇園祭の後祭の日を迎えました。山鉾に飾られた「見送り」と呼ばれる織物や絨毯などの調度品は今年も私たちの目を楽しませてくれました。考えてみれば、京都は西陣織を代表とする織物の町でもあります。生活の中に織物がありました。西陣界隈では、昔ほどではないものの、今でも細い路地を入っていくと機の音が聞こえてきたりします。
三千数百年前の古代中国の人々も蚕を飼い、糸を紡ぎ、織物を織って暮らしていました。それだけに、織物にかかわる漢字を多く残しています。今回はそうした織物にかかわる漢字を取り上げてみようと思います。まずは、材料である「糸」の字からです。
糸/甲骨3300年前 |
絲/金文3000年前 |
「糸」の最初の文字は「糸たば」をねじったような形をしています。糸たばを二つ並べた「絲」という字も「糸」を表す字でした。
蚕/甲骨3300年前 |
繭/篆文2200年前 |
その糸の材料は、二つありました。一つは蚕の繭から紡いだ「生糸=絹」です。(蚕という字は甲骨文字の中にその全形を表す形で登場します。繭は字の中に「糸虫」とあります。)もう一つは麻から採った「麻糸=布」です。「布」は古くは麻糸からできた「ぬの」を指していました。のち広く布一般の意味で用います。
錦/篆文2200年前 |
綿/篆文2200年前 |
蚕から採った絹糸には黄色い色をした「絹」と白い色をした「帛」がありました。金へんに帛と書く「錦」は、金銀糸あるいは数種の色糸を用いて模様を織り上げた厚手の豪華な絹織物のことを言います。のちに「帛」に「糸へん」をつけた「綿」もできます。綿は木綿のことです。古い時代の中国には糸の材料としての「木綿」はなかったようで、時代が下って南方からもたらされたものでした。
玄/篆文2200年前 |
素/篆文2200年前 |
さて、糸たばにした白い糸はいろいろな色に染められます。「緑」、「紫」、「紅」。中でも、糸たばをねじって染料につけて、黒色に染めあがった糸を「玄」(幽玄・玄人)といいます。糸たばの上側の部分を紐で結んで染料につけると、紐で結んだところだけが染まらず、元の白い色のまま残ります。それを「素」といいました。「素」は手を加えていない「もともとのもの」という意味で用いられます。(素質・素材・素朴等)
級/篆文2200年前 |
絶/篆文2200年前 |
染めあがった糸は織り機にかけられ織られていきます。縦糸をまっすぐに張り、そのあと横糸を通して下から上に順序良く織り上げていきます。階段を上るように一段ずつ織っていくことを「級」といいます。「及」は後ろから前に追いつくことを表す字です。織り上げていく途中で、糸が切れることがあります。そのことを表した字が「絶」です。糸が切れる、糸をたつという意味になります。後、すべて「たつ、たえる」などの意味で用います。
継/篆文2200年前 |
断/篆文2200年前 |
逆に切れた糸をつなぎ合わせる字もあります。切れた糸を糸でつなぐ字です。それが継続の「継」です。布を織り上げると最後、糸を切って完成させます。その字が「断」です。断に糸の字はありませんが、継続の「継」と同じ切れた糸を表すパーツ( )が入っています。
織物の字はまだまだ続きます。
放送日:2017年7月24日
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