老・金文(老/金文3000年前)

今年の敬老の日は9月18日。今回は「老い」にまつわる漢字を取り上げます。
まずは「」。「老」は「おいがしら」と「()」との組み合わせ。「おいがしら」は「おいがしら」と呼ばれ、「老」の字に使われていることからつけられた部首です。古い文字では、「おいがしら」は長い髪の人を横から見た形です。(つくり)の「()」は人を逆さまにした形で、横たわっている死者を表します。

化・甲骨

(化/甲骨3300年前)

()」が入っている字には化学の「」があります。「化」は「ひとへん」に「()」。生きている人と死んだ人が背中合わせに横たわっている姿で、生から死へと変化することを表します。まさに「化ける」です。

ただ、白川先生は、「老」の字の場合の「()」は「死に近い」という意味を示しているとおっしゃっています。従って、「老」は長髪の年老いた人をいい、「おいる、としより」などの意味で使われます。

現代と違って、年寄りのシンボルは長い髪であるということが面白いですね。漢字が生まれた三千年以上前の平均寿命は、現代よりずっと若かったはずです。江戸時代の松尾芭蕉でも三十代の半ばで「芭蕉翁」と呼ばれたりしていることから言えば、今よりずっと若くして老人ということだったのかもしれません。そういうことで長い髪は老人のシンボルでしたが、もう一つ重要なことがあります。それは、髪を長く伸ばせるのは一族の長、一族の指導者として尊ばれた人でもあったということです。そのことを教えてくれる字が「」です。

長・甲骨

(長/甲骨3300年前)

「長」は老と同じように長い髪の人を横から見た形。長髪の人が杖をついている姿に見える字です。その人は長い髪を持つ人ですから「ながい」の意味となり、併せて一族の指導者で尊ばれた人でもあったので、「かしら、たっとぶ」の意味を持ちます。長者、長老、会長、社長などといまでも「長」とつく偉い人を言います。

「老」と「長」を併せて「長老」という言葉がありますが、ともに長い髪を持つ指導者を尊敬の意を込めていう呼び名でした。

おいがしら(おいがしら)」を部首とする字は他にもあります。「考」と「孝」です。

考・金文

(考/金文3000年前)

「考える」という時に用いる「」は、古くは亡くなった父親のことを表す字でした。後に、学校の「校」と音が同じなので、意味の上でも通用し、「かんがえる、くらべる、しらべる」などの意味で使われるようになります。

孝・金文

(孝/金文3000年前)

「親孝行」という時の「」は、老人を背負う子供の姿です。親孝行のシンボルといってもいい字ですが、現代ではこの字はいろいろと考えさせられる字です。上に老人がおり、下に子供がいる構図。まるで子供の上に老人がかぶさるような字です。高齢化と少子化が進む日本では、今後一人の子供が何人かの老人を支える社会になります。子供が老人を背負う。それが子供の務め、「孝行」ということなのかもしれませんが、子供の負担はますます重くなります。若い世代に負担をかけない社会をどうして作っていけるのか、私たちに投げかけられた重い課題でもあります。

「老い」をめぐる漢字を取り上げました。いつの時代でも長寿を祝う祝い事があったようです。古い時代の中国の宮廷では、長老を招いて宴が開かれ、そこで鳩の頭飾りのついた杖がプレゼントされたようです。その杖を持つ人は、以後宮中に自由に出入りすることが出来たということです。「鳩」は平和だけでなく、長寿のシンボルでもありました。

放送日:2017年9月11日