10月22日は第48回衆議院総選挙の投票日でした。そこで「総選挙」という言葉に用いられている三つの漢字の成り立ちを取り上げてみます。
(総/篆文2200年前) |
最初に、「総選挙」の「総」。総合とか総理という時の「総」です。古くは「總」と書きました。「すべて、まとめる、あつめる」などの意味があります。今回は衆議院のすべての議席を争う選挙なので「総選挙」。
その「総」は「糸へん」です。糸に関係することから生まれた字です。糸の端っこを結んで、房のように束ねること、まとめることを「総」といいます。ただし、「総」は髪の毛を束ねてまとめることを表すという説もあります。一つに束ねた男の人の髪型を「総髪」と言いました。
(選/篆文2200年前) |
次は、選挙の「選」。「しんにょう」と「巽」との組み合わせです。「巽」は神前の舞台で二人の人が並んで舞う姿を表す字です。二人の人がそろって舞うので「そろう」という意味となり、神前で舞うことができる人は優れた舞い手=みんなの中から選ばれた舞い手であることから「えらぶ」という意味で用いられるようになりました。
(競/金文3000年前) |
古くから神様の前で行う行事(神事)では「選」のように二人が並んで執り行うことが多く、他にも二人が並んで神様にお祈りする姿から生まれた漢字ができました。 それが「競争」という時の「競」です。古い字(金文)は、誓いの言葉を表す「言」と「兄」との組み合わせで出来ています。神に仕える人である「兄」が、二人並んできそうように祈りを捧げる姿から「きそう(競争する)」の意味となりました。
(擧・挙/篆文2200年前) |
最後に「選挙」の「挙」です。今は「挙」と書きますが、旧字体では「擧」と書きます。さらに古い文字(篆文)を見ると、この字には手の形が五つも入っています。上から両手()で、下からも両手( )で、あるもの( )をつかむ形で描かれ、さらにその下から開いた手( )で高く持ち上げる形になっています。あるもの( )を高く捧げ持つことから「あげる」という意味を持つようになりました。
その高く捧げられている「あるもの」とは何なのでしょうか。白川先生によると古い文字では( )の形に描かれているのは「象牙」だそうです。貴重な宝物としての象牙を多くの人々の手で高く捧げ持つ形からできた字が「擧(挙)」でした。挙は挙手、挙兵というように「あげる」という意味で用いるほかに事を「おこなう」という意味にも用います。挙動が怪しいとか式を挙行するというように「おこなう」の意味で用いられる熟語があるように、選挙という語も「投票をおこなって選びだすこと」の意味で用います。
たくさんの人々の手で大切な象牙を高く捧げる「挙」という字の成り立ちのように、多くの候補者の中から選ばれて国会という一段高い場でこれから仕事をすることになる「象牙のような」大切な新しい議員の皆さんには、自分が多くの人々の手によって支えられて選ばれた、まさに選挙で送り出された人であることをいつまでも忘れないでいただきたいと心から願っております。
放送日:2017年10月23日
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