鄭州2 鄭州1

8月6~10日まで中国の河南省に行ってきました。鄭州(ていしゅう)・安陽・洛陽と中国古代文明の発祥地、漢字のふるさとへの旅でしたが、暑さも一緒に連れて行ったようで、京都と変わらぬ内陸の蒸し暑さにへとへとになる毎日でした。

それでも、前回(2013年)行けなかった場所を見学することができて、有意義な旅になりました。その一つが、鄭州市にある3600年ほど前の「商(殷)」時代前期の都の城壁の(あと)(中国で「城」と言えば、街全体を指します)です。城壁と言っても土で固めた巨大な堤防です。

当時の城壁の作り方は、板の塀(型枠)を両側に作り、その間に土を入れて押し固めていく「版築(はんちく)」と呼ばれる工法で作られました。今回見学することができた「商代遺趾(いし)」の土の壁は、高さ9メートル、幅20メートル、長さ100メートルほどのスケールで残っている場所です。何層にも押し固められた土は強固で、まるでコンクリートでできた壁のようです。上に登ると広い道路のようでした。(写真参照)

鄭州3   鄭州4

さて、今回はその「版築」工法で出来た城壁にまつわる漢字を取り上げてみます。

片・甲骨

片/甲骨3300年前

片・篆文

片/篆文2200年前

最初は、両側に作られた型枠を表す漢字から。古代文字(甲骨)をみると型枠の右側の半分を表す形です。片側だけの型枠の形から生まれた漢字が「片側、片一方」という時の「」です。

片方の図 版・篆文

版/篆文2200年前

では、両側の型枠全体を表す字は何でしょうか。それが、「版築」、「版画」の「」です。「版」は「片」と「反」との組み合わせ。「片」は板の片側の板の形。「反」は音符。「版」は、間に土を入れる両側の板全体を表します。

築・金文

築/金文3000年前

では、「(きず)く」、「版築」の「」という字は何を表しているでしょうか。「築」は「筑」と「木」との組み合わせ。「筑」に「たけかんむり」があるように、竹かごに土を入れて運び、工具(土を固める道具)を使って土を押し固めることを表します。下に「木」があるので、木の板の間に竹籠で運んだ土を入れ、押し固める「版築」と呼ばれている壁の作り方そのものを表す字です。現在、物を「築く」という時に用いる「築」は、もともと土の壁を作る工法そのものを表すことから生まれた字でした。

者・金文

者/金文3000年前

最後に、その城壁は街の外と内とを分ける(さかい)に作られましたから、悪いものがその壁をすり抜けて城内に侵入しないように、土の中に魔除けの札を埋めて防ぐことも行われました。その字が前回「暑い」をテーマにした時紹介した「何者」という時の「」です。「土」があり、札を隠す枝が「左ハライ」で残っています。下に魔除けの札を入れた口・篆文(さい、日)がある形です。本来は「(さえぎ)る」という意味で用いられた字です。それが、「庶民」の「庶」と入れ替わってしまったのです。

状・篆文

状/篆文2200年前

状の旧字体

状の旧字体

時に、犬も魔除けに埋められました。その字が「現状・状況」という時の「」です。「 状・パーツ 」と「犬」との組み合わせ。「 状・パーツ」は型枠の左半分の形( 片・パーツ2 )です。「犬」は鼻が利く動物なので、邪悪なもの、魔物が入ってくることをいち早く教えてくれると考えられたからです。

鄭州にある「商代遺址」をめぐる話は、もう一週続けます。

放送日:2018年8月11日