ラジオ第129回「神への祈りの月」

如・甲骨

中国から始まった新型コロナウィルスの広がりがおさまらない気の重い2月を迎えました。2月は日本では旧暦名「如月(きさらぎ)」です。

現在は太陽暦ですが、昔は太陰暦でしたので、旧暦の2月=如月は現在よりほぼ1か月先の季節でした。今の3月から4月ごろです。立春(2月4日)は文字通り春立つ日として暖かな日差しを感じさせたに違いありません。

中国では旧暦の1月が現在の2月に当たることから「正月行事」は2月に入ってから「春節」として始まります。例年ならものすごい数の人たちが里帰りのために移動する「春節」も、今年は様変わりしてしまいました。その影響が中国国内だけでなく日本にも深い影を落とし始めています。早く収束の方向に向かってほしいと祈るしかありません。

おそらく、古代中国でも、人間の力ではどうしようもないことが様々に人々に襲いかかってきたに違いありません。現代のように科学の力で対抗することができませんから、神様にひたすらお祈りするしかなかったはずです。

令・甲骨

令/甲骨3300年前

命・金文

命/金文3000年前

ですから、神様にお祈りする姿から生まれた漢字がいろいろとできました。

一つ目は、「命令」の「」。「令」はこのラジオでも何回となく登場していますが「深い帽子をかぶった人がひざまずいて神様のお告げを聞いている姿」からできた字です。神様にお願いをし、神様のお告げを受けている姿です。その神様のお告げは間違いのない絶対的なものなので、上から命令するという意味合いで用いられるようになりました。

「命令」の他に「号令」とか「指令」とかと言います。その「令」の前に願い事を入れた器=  口・篆文(口・さい)を置くと「命」という字になります。「令」と「命」は同じ意味を持つ字です。

兄・甲骨1

兄/甲骨3300年前

二つ目は、「」です。「兄」は「頭に願い事を入れた口・篆文(口・さい)を乗せて祈る人の姿」から生まれた字です。家族の願い事を代表して神様にお願いする人が一番上のお兄さん=長男の役割でした。昔ほどではないですが、今でも家は一番上のお兄さんが継ぐものという考え方が残っています。

起源ははるか昔の中国にありました。兄は良いことが訪れるように祈るのが務めでしたが、時にはよからぬことも祈ったかもしれません。それが兄の横に 口・篆文(口・さい)をもう一つ置いた「呪い」という字です。

如・甲骨

如/甲骨3300年前

三つ目は、今月の旧暦名「如月」に入っている「」です。「如」は「女」と「  口・篆文(口・さい)」との組み合わせ。「女の人が願い事を入れた器= 口・篆文(口・さい)を前にして神様に祈る姿」から生まれた字です。白川先生はここでの女の人は神に仕えた「巫女」さんだとおっしゃっています。巫女さんが神に願い事を訴え、聞いてもらおうとすることから、この字は、古く、「神意をとう」とか「神意に従う」、「神意に合うようにする」という意味で用いられました。

今私たちが用いる「何々の(ごと)し」という用い方は、神のお告げを受け、神の意に従い、その通りにすることから、同じであるという意味に用いられるようになりました。

若・甲骨

若/甲骨3300年前

匿・金文

匿/金文3000年前

四つ目。神様にお仕えする巫女が「手を挙げ、髪を振り乱して神様にお願いする姿」から生まれました。それが「若い」という時の「」です。「若」の由来は、巫女さんが神に激しく祈る姿から生まれた字です。その巫女さんが若い女性だったので「若い」という意味になりました。

その若い巫女さんの「神への祈り」は、ひそかに行った方が効果があったようで、人前から隠れて行われました。それが「匿名」という時の「」です。「かくしがまえ」に「若」という字が入っています。「匿名」。本名を隠す。合点です。

「令」・「兄」・「如」・「若」どの字も神に祈りを捧げる人の形からできた字です。すべての字を動員して神に祈り、今人々に降りかかっている災厄を吹き飛ばしてしまいたい気になります。

2月の旧暦は「如月」。「如の月」。今月は「神への祈りの月」です。そして、旧暦2月は、日本では梅の花が咲く「良い月」・「素晴らしい月」でもありました。「令和」の年号の由来となった万葉集に出てくる2月が、「令月」です。

今見たように「令」も神に祈る姿から生まれた字でした。「如月」、「令月」ともに2月を「神への祈りの月」と強く印象付けてくれます。

放送日:2020年2月10日


2 Comments

  1. 兆し 挑む 逃げるについて検索していましたら、こちらのHPへ辿り着きました。とても面白く読ませて頂きました。( ˊᵕˋ )

    • 510sensei

      2020年3月8日 at 12:12 AM

      読んでいただきありがとうございます。
      ほぼ2週間に一回更新しています。また、覗いて見てください。

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